うちなー(おきなわ)小説・絵本の1年を振り返る! 3冊

『宝島』(真藤順丈)は、島の全てが著者の味方になったと捉えています。
書店員名前
リブロリウボウブックセンター店(沖縄) 筒井陽一さん

 こんにちは。今回はこの1年で話題を集めた、沖縄を舞台とした文芸・児童書を振り返りたく思います。まずは何といっても直木賞受賞作『宝島』真藤順丈……戦果アギヤー(戦果を挙げる者=占領米軍から物資を奪取する者・義賊)の荒くれ者たち、その中で英雄と呼ばれていた男が突然消えた。英雄を追いながら、かつての仲間たちは戦後アメリカ統治下から本土復帰までの激動の時代を生きる……。

うちなー(おきなわ)小説・絵本の1年を振り返る! 3冊
講談社

 現在、県内書店の売場を席巻中であります。直木賞報道直後は各所で完売が相次ぎました。地元紙の沖縄タイムス・琉球新報も大反響を伝え、再入荷待ちの方は当店170名様超え、補充も100冊単位で連日入荷、という状況。積んでは売れ、積んでは売れ、と今や懐かし『ハリポタ』どころの騒ぎではありませぬ。おじぃおばぁが熱き思いで語るには「戦後から復帰までの思い出が重なる」「登場人物のモデルが浮かぶの」「(沖縄本島)中部は中部で大変だったのよねえ」などなど。著者・真藤さんの受賞会見における真摯さも、基地問題で大揺れな「沖縄の今」へ訴えかけたのだと思います。本土出身の方がこの時代を舞台とした小説を書くというのは実に大変だったはず。今回は島の全てが著者の味方になった、良い方に風が吹いた、と私は捉えています。なお直木賞候補時は当店スタッフMが帯コメントを担当しました(うれしい)。

 アガサ・クリスティー賞受賞の『入れ子の水は月に轢かれ』オーガニックゆうきも大きな話題となりました。

うちなー(おきなわ)小説・絵本の1年を振り返る! 3冊
早川書房

 こちらは現代、国際通りの路地裏で起こる事件。舞台は日本一小さな古書店「市場の古本屋 ウララ」の周辺です。バックストリート・ミステリと銘打たれた本作でも、暗渠にからむ沖縄戦後史の闇が描かれます。著者オーガニックさんは那覇市の隣、浦添市の出身。これからの活躍が楽しみな新人さんです。

 さて最後の一冊は沖縄県産本『ぼくもあったらいいなぁ』いさお名ゴ支部はホッと笑い。

うちなー(おきなわ)小説・絵本の1年を振り返る! 3冊
沖縄タイムス社

 演芸集団FECの芸人「やぎのシルー」こといさおさんの初絵本。白塗りのやぎの格好で、日夜ネタを連発するいさおさんも良いですが、絵本で真面目に「みんなちがってみんないい」を子供らに教え諭すいさおさんも素敵ですよ。

 以上「第5回沖縄書店大賞」候補作でした(2月時点)。ぐすーよー(皆様)結果にご注目!

 

〈「きらら」2019年4月号掲載〉
 
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