多様性社会を生き抜く。

女性らしくではなく、自分らしく生きたい。
書店員名前
明林堂書店南佐賀店(佐賀) 本間 悠さん

「これセクハラじゃん」何気なく見ていたテレビに向かって、中学三年生になる息子がそんな事を言う。ふくよかな体型の女性が、そのことを周囲にイジられている場面だった。イジられている当人を含め、画面の中の人たちは、みな楽しそうに笑っている。息子はテレビをつまらなそうに一瞥すると、手持ちの端末からYouTubeにアクセスした。

 それがセクハラに当たる事は私だって知っているが、あえて口にしないのが正しさだと刷り込まれている自分に気付かされる。女性が受ける様々な差別について書かれた『女に生まれてモヤってる!』は、ジェーン・スーさん・中野信子さんが極めてロジカルに女性の生き辛さを解明してくれる。女性らしくではなく、自分らしく生きたい。この二人の対話の中に、心の在り方のヒントがぎっしりと詰まっている。

女に生まれてモヤってる!
小学館

 イギリスの元底辺中学校に入学した「ぼく」と、その母である作者・ブレイディみかこさんの日常を描く、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、更に多様な差別が織り込まれた話題作だ。人種・宗教・格差……〝地雷だらけ〟の中学で揉まれながら、自分なりの倫理観を身につけてゆく「ぼく」の視点が眩しく、愛おしい。見守る・手放す・時に寄り添う、作者と「ぼく」の絶妙な距離感に、つい自分の親子関係を省みる。年ごろのお子さんとの関係に悩む親御さんにも、是非読んでいただきたい。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
新潮社

 出版されるや否や中高生からの問い合わせが後を絶たず、読んでみたらすっかり私もkemioワールドに染まってしまったのが『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』。ユーチューバー・若者のカリスマ・同性愛者……そんな肩書から受ける私の下卑た先入観は、彼の純粋さの前に立ちどころに消滅してしまった。彼の本を読みたい、そんな若者がいるのなら、まだまだ日本は捨てたもんじゃないと希望すら持ってしまう。

ウチら棺桶まで永遠のランウェイ
KADOKAWA

 さて、うちの息子。YouTubeにアップされた、同性愛者を馬鹿にするようなコンテンツを見て笑っている。セクハラを指摘しつつ、同性愛者は笑いの対象にする、矛盾。こんな時、ブレイディさんなら、kemioさんなら、何て声をかけるのだろう。ますます複雑化する多様性社会を生きる彼にかけるべき言葉を、私は今日も本の中に探している。

〈「きらら」2019年10月号掲載〉
 
今月のイチオシ本【警察小説】
文学に学ぶ、「遠距離恋愛」の成就の秘訣【文学恋愛講座#16】