いつまでも隣にいて欲しい1冊

復刊した『ウェルカム・ホーム!』(鷺沢萠著)は、私の心のベストテン不動の第1位の作品である。
書店員名前
ブックマルシェ津田沼店(千葉) 渡邉森夫さん

 今回は私の心のベストテン、ナウ&フォーエバーの作品を紹介したい。

ルビン
新潮社

 まずはナウ。書店員としてこの1年のベスト作品は、『ルビンの壺が割れた』宿野かほる著)だ。装丁良し、価格(本体1000円)良し、遅読家の私でも2時間以内に読めるボリューム感。文句のつけようがない。何よりも読後に誰かと話したくなるというワクワク感。店頭でも老若男女問わずに売れている。「いいから、まず読んで」と誰にでも薦められるというのはとても強い。本来、内容を紹介するところではあるが、敢えて言いたい。「いいから、まず読んで」と。

 

w
新潮文庫

 二作目は『ウェルカム・ホーム!』鷺沢萠著)。こちらは待望の復刊作品だ。父子家庭に主夫として入り込んだ渡辺毅の話と、結婚・再婚も失敗し、現在はバリバリのキャリアウーマンの児島律子に届いた元夫の連れ子の結婚話、という家族の話2編が収められている。「男とは何か。女とは何か。」と頭でっかちに考えてしまうことが多いが、そんなことより大切なものとは何かを教えてくれる。「ただいま」は独りでも言えるが、「おかえり」と言ってくれる人や場所は何よりも替えがたい。そして三浦しをんさんの解説がこれまた素晴らしい。私は最初の文庫発刊時の十年前から今でも年1回は少なくとも読み返す。私の心のベストテン不動の第1位の作品である。

 

きねま
文春文庫

 そしてエンターテイメントを愛する人に届けたい『キネマの神様』原田マハ著)。円山歩は大手シネコンに退職届を出した日にお父さんが倒れてしまう。しかしこの父、かなり強いクセの持ち主で、酒にギャンブルに借金にと家庭を顧みずにやりたい放題に過ごしてきた。唯一の美点は映画への比類なき愛情。17年で200冊を超える映画日記を目にし、歩は父との熱い映画愛を通わせる─。名作映画のトリビアはもちろん、親子、友人とそれぞれの絆を強くしていく姿はまさに感涙ものである。この作品のことで原田マハさんに以前お話を伺った時に、「この話のモデルは自分の父です。そして小さい頃から兄とよく映画館に通った思い出です」というエピソードをお話しされていた。だからこそこの作品には映画にも家族にも愛情がたっぷり含まれているのだろう。永遠に人の心の鐘を鳴らし続ける作品である。

近藤史恵さん『インフルエンス』
文体模写にコツってあるの? 「もしそば」の著者に実演してもらった