採れたて本!【デビュー】

採れたて本!【デビュー】

 身代金は10億円。その全額をクラウドファンディングで日本国民から募集せよ。

 なになにそれどういうこと? そんな脅迫状ってあり? と思った時点ですでに著者の術中にハマっている。新人のデビュー作としてはこのアイデアだけで合格だろう。というわけで、みごと第8回新潮ミステリー大賞を受賞したのが京橋史織の本書『午前0時の身代金』。

 選考委員の道尾秀介は、「目新しい設定に引きつけられ、物語の起伏に興奮した。作家に必要なのは大嘘を信じさせる才能だと、あらためて思う」と絶賛している。まさにそのとおりだけど、考えてみるとこれ、『元彼の遺言状』メソッドですね。「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という前代未聞の遺言状をフィーチャーした新川帆立の同書に対し、本書の看板は前代未聞の脅迫状。主人公が弁護士というところまで同じだが、本書の語り手・小柳大樹は、司法修習を終えて法律事務所に採用されたばかりの新米。辣腕の企業法務弁護士・美里千春(通称ボス)に日々きびしく指導されている。大樹が新たにボスから対応を命じられたのが、21歳の美容専門学校生・本條菜子の相談。詐欺事件の片棒をかつがされ、グループを抜けようとしたが、いろいろあって詐欺集団に追われているという。その彼女が、大樹との面談の直後、忽然と失踪。翌朝、クラウドファンディングサイトを運営するIT企業のもとに、「女子学生誘拐ならびに身代金要求のお知らせ」という件名のメールが届いたことが大々的に報道される。《誘拐プロジェクト》の募集期間は24時間。集まった金額が10億円に満たない場合、人質の安全は保証しない……。

 犯人はいったいなぜ身代金をクラファンで集めさせるのか? 集めた10億をどうやって受けとる気なのか?

 さまざまな謎を孕んだまま、メディアをフルに活用した10億円募集プロジェクトが動き出す。タイムリミットは午前0時。果たして24時間で目標金額を達成できるのか──というサスペンスを軸に、物語はハイテンポで進んでゆく。

 事件の真相や解決に至る手順には強引なところも目立つが、大ネタが看板倒れに終わらず、曲がりなりにもちゃんと着地した点は大いに評価できる。実際、発売4日で重版が決まったそうで、威力は絶大。売れ行きと話題性でも、『元彼の遺言状』に続けるか?  著者は1972年、徳島県生まれ、東京都在住。お茶の水女子大学卒。ラジオドラマや舞台の脚本を手掛けたのち小説を書きはじめ、8年目にして本書で新潮ミステリー大賞を射止めたとのこと。

午前0時の身代金

『午前0時の身代金』
京橋史織
新潮社

〈「STORY BOX」2022年5月号掲載〉

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