◉話題作、読んで観る?◉ 第2回「去年の冬、きみと別れ」

kyonennohuyu

脚本:大石哲也/監督:瀧本智行/音楽:上野耕路/出演:岩田剛典 山本美月 斎藤工 浅見れいな 土村芳 北村一輝/配給:ワーナー・ブラザース映画
3月10日(土)全国公開
▼公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/fuyu-kimi/
©2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

 芥川賞作家・中村文則の小説は純文学性とミステリー性を融合させたものが多く、若い世代から絶大な支持を得ている。そんな人気作家を、映画界が放っておくはずがない。中村作品は今まで何度か映画化されているものの、まだ決定打は生まれていないのが現状だ。

 2013年に出版された『去年の冬、きみと別れ』も、映像化するのは容易ではない。女性モデルを監禁した挙げ句に焼死させた疑いで、著名なカメラマン・木原坂雄大が拘置所送りとなったことから物語は始まる。雄大が女性を焼死させたのは、これが二度目。しかも女性に火を放ちながら、その様子をカメラに収めようとしたため、死刑は免れない。

 芥川龍之介の『地獄変』さながら、芸術のために女性の命をないがしろにする雄大の鬼畜ぶりが強烈な印象を残す。だが、この雄大を取材して一冊の本にしたいというルポライターが現われ、物語の行方は二転三転する。

 各章ごとに、雄大、ルポライター、雄大の姉、犠牲者となった女性が残した日記……と物語の視点が変わり、その度に事件の意外な真相が見えてくる。中村ならではの変幻自在なストーリーテリングが楽しめるが、そのぶん映像化のハードルも高い。その難問に挑んだのは、『脳男』『グラスホッパー』と原作小説の映画化に成功している瀧本智行監督と大ヒット作『デスノート』で知られる脚本家の大石哲也。雄大を取材するルポライター耶雲(岩田剛典)を主人公に据えた、明快なミステリーものに仕上げている。

 サスペンスとしては見応え充分。『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』で爽やかな王子さまキャラを演じた岩田は、今回は序盤と終盤では別人かと思うほどの変身ぶりを見せている。しかし、中村作品を愛読しているファンは食い足りなさを感じるかもしれない。現実世界よりもカメラを通した世界にリアリティーを感じてしまう雄大の表現者としての心の空虚さは、雄大役の斎藤工のアンニュイな雰囲気のみに留まっているからだ。

『教団X』『R帝国』など、中村作品にはまだまだ人気作が多いが、やはり映像化は困難なものばかり。現代人が抱える心の闇を映像として表現するのは難しい。人気作家と映画監督たちとの闘いは当分続くに違いない。

(文・長野辰次)

(「STORY BOX」2018年3月号掲載)

原作はコレ☟
gensaku
去年の冬、きみと別れ
中村文則/著
(幻冬舎文庫)
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