◉話題作、読んで観る?◉ 第25回「ラストレター」

◉話題作、読んで観る?◉ 第25回「ラストレター」

監督・原作・脚本・編集:岩井俊二/音楽:小林武史/撮影監督:神戸千木/出演:松たか子 広瀬すず 庵野秀明 森七菜 小室等 水越けいこ 木内みどり 鈴木慶一 豊川悦司 中山美穂 神木隆之介 福山雅治/配給:東宝
全国東宝系にて公開中
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『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』などで知られる岩井俊二監督が2018年に発表した小説『ラストレター』を、自身の手で映画化。中国人キャストを起用した中国映画としてすでに海外では公開されており、舞台を中国の大連から岩井監督の故郷・宮城に変えての二度目の映画化となる。

 売れない小説家の鏡史郎(福山雅治)が高校の同窓会に参加したことから物語は動き始める。鏡史郎は学年のヒロイン的存在だった未咲との再会を期待していたが、現れたのは未咲の妹・裕里(松たか子)。同級生たちが裕里を未咲だと勘違いしたことから、裕里は未咲のふりをし、未咲のふりを続ける裕里と鏡史郎は奇妙な手紙のやりとりを始める。

 勘違いをきっかけに文通を始めるという設定は、岩井監督の長編デビュー作『Love Letter』を彷彿させるもの。『四月物語』で映画初主演を飾った松たか子、『Love Letter』で俳優としての評価を高めた中山美穂、豊川悦司らが出演。岩井作品と共に年齢を重ねてきた世代には感慨深いものがある。手紙、夏休み、図書館、学校の踊り場……、と岩井作品ならではのキーワードが物語を盛り上げる。

 懐かしさを感じさせる岩井ワールドに新しい潤いを与えているのは、未咲と裕里の高校時代、そして未咲の娘・鮎美、裕里の娘・颯香の二役を演じた広瀬すずと森七菜。『リップヴァンウィンクルの花嫁』の撮影も手掛けた神戸千木のカメラワークが冴え、特別な時間を過ごす少女たちの輝きをスクリーンに映し出している。

 小説と映画では鏡史郎の設定が多少異なるほか、豊川悦司演じる謎の男・阿藤の素性が小説では明かされている。岩井監督が頭の中に思い描いたイメージを、どのように映像化したかを知ることができる。

 若い頃に別れたきりの未咲の残像を追い求めてきた鏡史郎だが、現実の世界を生きる鮎美たちと出会い、見失っていた大切なものを思い出す。思い出とは過ぎ去った過去ではなく、その人にとってのアイデンティティーの一部でもある。どんなに時代が流れ、環境が変わっても、人間の心の中には誰にも穢すことができないものがある。甘いノスタルジックさに隠された岩井監督からのメッセージを受け止めたい。

(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2020年2月号掲載〉

原作はコレ☟
『ラストレター』

『ラストレター』
岩井俊二/著
(文春文庫)
翻訳者は語る 吉野弘人さん
小手鞠るいさん『ある晴れた夏の朝』