小手鞠るいさん『ある晴れた夏の朝』

原爆投下は正しかったのか? 「この作品は私が書かなくてはならない」という使命感がありました

 広島・長崎に落とされた原子爆弾の是非について、アメリカの高校生たちが意見を交わし合う『ある晴れた夏の朝』。第68回小学館児童出版文化賞を受賞した同作について、アメリカから一時帰国した小手鞠るいさんにお話をうかがいました。

小手鞠るいさん『ある晴れた夏の朝』

原爆投下をアメリカ側の視点から書いた物語を

──小学館児童出版文化賞受賞、おめでとうございます。現代アメリカに住む高校生が原爆投下の是非を問う、という設定が新鮮でした。

小手鞠……偕成社の編集者の方から、「原爆をテーマにした児童向けの作品を」と投げかけていただいたのが始まりでした。ちょうどそのころ戦争資料にどっぷり浸かりながら『星ちりばめたる旗』と『炎の来歴』を並行して執筆していましたから、もう願ったり叶ったりといいますか、すぐさま「書きます!」と返答しました。
 最初に決めたことは、原爆投下の是非をアメリカの視点から書くということ。被爆国である日本には、原爆をテーマにした優れた作品がすでにたくさんあります。けれども、原爆を落とした側であるアメリカで原爆がどのように教えられ、どう捉えられているかについて書いている作品はほとんど見当たらない。また、アメリカは、いろんな宗教を信じている、いろんな人種の人たちが暮らす多民族国家です。このことを日本の読者に伝えるために、人種の異なる高校生たちの公開討論会という形にしました。

──それぞれ異なるルーツを持つ高校生8人が、原爆肯定派・否定派に分かれて席につきます。主人公のメイは日系アメリカ人です。

小手鞠……最初は、日本人の両親を持つ日本からの留学生を主人公にしようかと思っていたんです。でもこの輪の中に日本人を入れた途端に、日本からの視点が強くなってしまう気がして、メイはアイルランド系の父と日本人の母を持つアメリカ育ちの日系アメリカ人、という設定にしました。日本にルーツを持つ彼女は、「あの原爆投下は間違っていた」という否定派です。であるならば、肯定派のチームにも日系人を1人入れよう、というふうに考えていきました。ただ、全員の人種をはっきり特定しているわけでもありません。

原爆がもたらした悲劇 そこに正しさはあったか

──原爆肯定派と否定派、それぞれの主張に触れ、「あの戦争にそんな視点が!」と驚く読者も多いのでは。

小手鞠……日本の戦争教育においては、原爆投下の悲劇性が強調されがちでした。少なくとも私が受けた学校教育はそうでした。アメリカ軍の空襲がだんだん激しくなってきて、生活が苦しくなってきて、ボロボロになったところに原爆が落とされました、と。その深刻な被害だけを見せつけられると、「かわいそう」という思いしか湧いてこないですよね。

──国家総動員を根拠に「(原爆が投下された町の一般市民は)殺されて当然だったのでは」という意見が肯定派から出てくる一幕もあります。

小手鞠……アメリカでは戦略・戦術として原爆投下は必要だった、という考え方を持っている人が決して珍しくないんです。まず、戦争を最初に仕掛けてきたのは日本だった。日本軍による真珠湾攻撃によって、アメリカ海軍は甚大なる被害を受けた。その後、戦局が逆転し、敗戦が濃厚になってきてからも、日本軍は降伏せず、国民全員が一丸となって最後のひとりが死ぬまで戦いつづけると表明した。無謀な戦争をやめさせるために、これ以上、戦争による犠牲者を出さないためにも、アメリカはやむなく原爆を投下した。あれは正しい決断だった。アメリカに移住した当初、そういった考え方が存在しているということ自体が私にとっては大きなカルチャーショックでした。ただ、そういう思いをずっと抱えてきたことが「この作品は私が書かなくてはならない」という執筆意欲につながったのだと思います。

刊行前は強い反発を受ける覚悟もしていた

──10代によるオープンな討論会という設定も、日本の中高生読者には新鮮だったのでは。

小手鞠……アメリカの学校ではディベートの授業があります。『ある晴れた夏の朝』では、それぞれ自分が正しいと信じる意見を主張しますが、授業ではあえて自分の考えとは別の立場に立って議論をすることもあります。その過程で、自分の思想も見直せますから。でもどんなに激しく反対意見をぶつけ合っても、終わったらハグして仲良し、みたいなのがアメリカ人のいいところ。日本だと口論した後は大人でも気まずくなっちゃうでしょう。
 中学生から届いた感想文にも、この公開討論会それ自体が刺激的だったというコメントがありました。「僕もこれからはこんな風に自分の意見を発表していきたい」って。10代の感想ってすごく純粋なんですよ。まだ魂が穢れていないっていうのかな。「自分が知らなかったことをたくさん学べた」「学校では習わなかったけど、こんな風にいろんな考え方があるんだという発見があった」……そういう声をたくさん聞くことができてうれしく思いました。
 実は、本が出る前は教育・学校関係者の方々から強い反発が来るかもしれない、と覚悟をしていたんです。日本の過去の歴史教育に一石を投じるような面もありましたから。ところが蓋を開けてみたら好意的な意見ばかりだった上に、学校図書館協議会の推挙による「課題図書」にも選んでいただいて。予想外の反響でした。
 もうひとつ、うれしかったのは戦争体験者の方々からの感想です。80代、90代の方々が読書カードに「よくぞ書いてくれた」と感想を綴ってくださって。私の父も満州事変を日本が起こした年に生まれた戦争体験者なのですが、「よく調べて書いてくれた」と言ってくれました。

小手鞠るいさん

──意見が対立する相手を尊重することの大切さ。正解のない問題を考え続けていくことの重要性……。10代の登場人物たちの振る舞いに、大人の読者も学ぶべき点がたくさんありました。

小手鞠……そうそう、去年の8月7日の日本経済新聞のコラムで『ある晴れた夏の朝』が紹介されたんです。そこには「議論することの大切さを教えられた」と書かれていて、児童書という紹介がされていなかったことも功を奏したのか、日経の読者が「これは読まなきゃ」と思って注文してくださったんでしょうね。その直後に Amazon の児童書ランキングで1位になったんです。うれしかったです。
 この作品に関していえば、「小手鞠るい」はあの戦争をどう考えているのか、という主張を一切出さないようにしています。大切なのは、8人の子どもたちがそれぞれどう考えているかということ。そこに私自身の意見を反映させることによって、一方的にひとつの物の見方を押し付けてはならない、ということを執筆中、強く意識していました。

2月刊行の最新作『窓』では母娘と戦争がテーマに

──討論会の行方、その先の主人公の選択も含めて、タイトル通りの清々しいラストでした。

小手鞠……ありがとうございます。2月に『窓』という新作が出る予定なのですが、実はこの作品にも戦争が深く関わっています。家族3人で渡米し、その後帰国することになった時、ひとりアメリカに残ることを選択した母親と、父に連れられて日本に帰国した幼い娘。その娘が成長した後に、彼女が「あるもの」を通して母親の足跡をたどっていく物語です。

──近年、戦争をテーマにした作品を精力的に執筆されていますが、やはり意図して?

小手鞠……使命感を持っています。戦争体験者である父母の声を直接聞いている世代である自分が、書き残しておかなければならないことがある、と。戦争をまったく知らない世代がどんどん増えていくなかで、可能な限り書き残しておきたいという思いがあります。『窓』はここ数年の流れを汲みつつ、テーマをさらに深めたという手ごたえのある作品です。ぜひ読んでいただけたらうれしいです。
 


ある晴れた日の朝

偕成社 本体1400円+税


小手鞠るい(こでまり・るい)
1956年岡山県生まれ。現在はニューヨーク州ウッドストック在住。93年『おとぎ話』が海燕新人文学賞を受賞。2005年『欲しいのは、あなただけ』で島清恋愛文学賞、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん』でボローニャ国際児童図書賞(09年)受賞。主な作品に、『エンキョリレンアイ』『望月青果店』『思春期』『アップルソング』『優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物』など。

(構成/阿部花恵 撮影/小倉雄一郎)
〈「きらら」2020年2月号掲載〉
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