◉話題作、読んで観る?◉ 第33回「私をくいとめて」

◉話題作、読んで観る?◉ 第33回「私をくいとめて」

監督・脚本:大九明子/出演:のん 林遣都 臼田あさ美 若林拓也 前野朋哉 山田真歩 片桐はいり 橋本愛/配給:日活 
大ヒット上映中
映画オフィシャルサイト


 綿矢りさ原作、大九明子監督のスマッシュヒット作『勝手にふるえてろ』に続く、タッグ作第2弾。のんを主演に迎え、アラサー女子の「おひとりさま」ライフを赤裸々に描いている。

 都内で暮らす黒田みつ子(のん)は、31歳になる独身OL。職場ではなるべく目立たないように過ごす一方、休日は「ひとり焼肉ランチ」「ひとり日帰り温泉」などのソロ活を満喫している。誰にも気兼ねせずに済み、ひとり暮らしは快適だった。

 みつ子のいちばんの相談相手は、みつ子の心の中にいるA。声だけの存在であるAだが、いつもみつ子が納得できる解答を用意してくれる。取引先の感じのいい営業マン・多田(林遣都)が近所に住んでいることが分かり、Aはみつ子に多田と交際することを猛プッシュする。だが、みつ子は他人と距離を置く生活に慣れているため、多田と親密な関係になることに抵抗を感じてしまう。

 一見すると平穏そうなみつ子の日常は、目には見えない柔らかい繭のようなものに覆われている。繭に包まれている限りは安心だが、他者がその繭を破って近づこうとすることをみつ子は極端に恐れている。多田のように温厚な男性相手でも、ホテルで2人っきりになるとみつ子の心は今にも壊れかねない。ひとりでいることは気楽、でも一生ずっとひとりで生きていけるほどの強い信念も持ち合わせてはいない。

 みつ子が唯一心を許せるのは、学生時代の親友・皐月(橋本愛)だけ。皐月は国際結婚して、ローマで陽気に暮らしているが、彼女もまた母国語の通じない社会で一抹の孤独さを抱えて生きている。おひとりさまも、結婚生活も、どちらも決して楽ではない。

 2016年に新聞連載された原作は、綿矢が結婚、妊娠という人生の大転機を迎えた時期に執筆したもので、主人公のみつ子は独身時代の綿矢が投影されたキャラクターとなっている。実年齢では27歳になるのんが、アラサー女子の揺れ動く心理を痛々しいほどリアルに演じてみせている。

 みつ子は柔らかい繭を破って、外へ出ることができるのだろうか。みつ子はコロナ禍を生きる私たち自身のように思える。

原作はコレ☟

◉話題作、読んで観る?◉ 第33回「私をくいとめて」

『私をくいとめて』
綿矢りさ/著
(朝日文庫)

(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2021年1月号掲載〉

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