◉話題作、読んで観る?◉ 第4回「孤狼の血」
監督:白石和彌/脚本:池上純哉/出演:役所広司 松坂桃李 真木よう子 江口洋介 配給:東映 R15+
5月12日(土)より全国公開
▼公式サイト
http://www.korou.jp/
©2018「孤狼の血」製作委員会
松方弘樹、菅原文太らが男臭さを競い合った東映ヤクザ映画『仁義なき戦い』(1973年)の大ファンであることを公言する山形在住の作家・柚月裕子。東映系で公開される『孤狼の血』は、2016年の日本推理作家協会賞を受賞した同名警察小説の映画化であり、『仁義なき戦い』の熱さを受け継ぐ骨太なドラマに仕上がっている。
広島にある架空の都市・呉原市を舞台に、叩き上げのベテラン刑事・大上(役所広司)と配属されたばかりの新人・日岡(松坂桃李)らマル暴捜査官たち、昔気質の地元暴力団、新興してきた広域暴力団グループとの三つ巴の抗争が繰り広げられる。
東映から映画化を託されたのは、『凶悪』や『日本で一番悪い奴ら』といった実話ベースの犯罪映画で近年注目を集めている白石和彌監督。『仁義なき戦い』ばりの重厚なナレーションで幕を開けるなど、往年の実録ヤクザ映画へのオマージュを捧げながら、役所&松坂の実力派俳優同士によるバディムービーとして物語をエネルギッシュに押し進めていく。
とにもかくにも、大上刑事のダーティーぶりが強烈だ。捜索令状なしで暴力団組員を署外に拉致監禁し、罪状も平気ででっち上げてしまう。ヤクザよりもヤクザらしい。また、大上の敵は暴力団だけではない。警察上層部の弱みを記した手帳を武器に、独自捜査に誰も口を挟めないようにしている。
「警察じゃけぇ、何をしてもええんじゃ!」と広島弁で啖呵を切る大上を、ヤクザ映画への出演は久々となる役所が大熱演。規律を遵守していた部下の日岡が次第に大上に感化されていくように、松坂が役所の熱気を浴びてワイルドな顔つきに変わっていく過程も見どころだ。クライマックスシーンには大上の姿がないものの、逆に主人公の不在が物語の面白さを大きく膨らませている。
原作にはない、オリジナルシーンが最後の見せ場として用意されているが、こういった映画ならではのカタルシスをもたらす脚色は歓迎したい。原作、映画ともに、男たちが熱かった時代への郷愁が込められている。平成の世が終わろうとしている今、昭和という時代がますます遠くなったことを実感させられる。
(「STORY BOX」2018年5月号掲載)