「推してけ! 推してけ!」第3回 ◆『あんときのRADWIMPS 「人生 出会い」編』(渡辺雅敏・著)

「推してけ! 推してけ!」第3回 ◆『あんときのRADWIMPS 「人生 出会い」編』(日野 淳・著)

評者・日野 淳 
(ライター・編集者)

描かれる表現者の壮絶な業


 大ヒット映画『君の名は。』『天気の子』の音楽を担当し、一躍国民的ロックバンドとなった RADWIMPS。

 本書の著者は彼らのレコード会社担当スタッフ。高校生だった RADWIMPS を知り、野田洋次郎という全く新しい才能が生み出す楽曲に魅了され、以来ずっと共に歩み続けている。

 つまり RADWIMPS を最も近くで見てきた者による、これまで語られなかった「あんとき」の頃のことを綴ったノンフィクションというのが、本書の表向きの立ち位置だ。

 ちなみに『「人生 出会い」編』という副題は、ファーストアルバムの一曲目のタイトルに由来する。著者がCDショップの試聴機で初めて聴いたバンドとの出会いの曲。また本書にはメンバー四人の出会いも書かれていることや、多くの若者たちがバンドの存在を知った、デビュー初期の頃を描いていることにも繋がっている。

『君の名は。』で彼らの存在を知った人たちにとっては意外なことかもしれないが、RADWIMPS はそれ以前から「大人が知らない社会現象」と言われるほどの絶大な人気を博していた。それがなぜなのかは、この本を読めば全て理解できるだろう。

 とこんなことを語ったとしても、他のアーティスト関連本の多くがそうであるように、本書もそのアーティストのファンにしか楽しめないものだと思われてしまうに違いない。でも私はここで、この本に限ってはそうではないと声を大にして言っておきたい。表向きの立ち位置からするとそうなってしまうのだけど、それだけではない。

 まずこのノンフィクションは、極めて普遍的な成長物語だ。仲間と集まって音を鳴らすことを純粋に楽しんでいた十代の無垢な少年たちは、世の中から大きな評価を得ていくことと引き換えに、「柔らかくて温かくて、大切にしてきたもの」を失い、大人になっていく。その中で「解散」という言葉が囁かれ、メンバーの脱退騒動も勃発。それでもバンドと音楽を諦めずに突き進んでいった四人の、まさに汗と涙にまみれた人間ドラマは、彼らのファンであるか否かにかかわらず、読む者の胸を打つ骨太な魅力を放っている。

 そしてもう一つのポイントは、今や俳優としても活躍し、時代を代表する表現者として認知されている野田洋次郎という人間の凄み、ものを生み出す者としての業の在り様である。

 バンド結成時から、四枚目のアルバムまでの RADWIMPS は、全曲の作詞・作曲を担う野田にとって、「彼女に愛を叫ぶための装置」だった。

「本当のことしか届かない」と考えていた野田が作る歌は、日常のドキュメンタリーでなくてはならず、結果的にその全てが一番大切な存在である彼女へ向けたものになっていた。だからこそそこには特別な熱量、純粋さ、リアリティが宿り、リスナーの心に真っ直ぐに突き刺さった。

 しかし彼女を失ってしまった野田は、RADWIMPS を「愛を叫ぶための装置」から、別の新しい何かへと変えなくてはならなかった。

 そこで立ち上がってきたのは、「すごいバンド」になって、「モネの『睡蓮』のような百年後も残るもの」を作るという理想。

 偉大すぎる理想はメンバー間の軋轢を生み、前述の脱退騒動なども起こる。しかし何があっても野田は理想を手放さず、異様なほどの集中力で音楽と向かい合い続ける。日に日に痩せていき、「音楽が積み重なってるから」と毎日同じ服を着続け、周囲からは「音楽に取り殺されるんじゃないか」と怖れられるまでになる。才能という言葉だけでは片付けられない、表現者としての壮絶な業。音楽のためにここまでしなくてはいけないの? というほど鬼気迫る姿を本書は克明に描写していく。

 繰り返しになるが、この本を書いているのはバンドとともに歩んできたレコード会社担当、つまり彼らの身内だ。身内なら多少の手加減というか、熾烈なエピソードは控え目に、笑いや感動を誘う場面を繋いで、口当たりのいい物語に仕立てることもできたはず。

 でもそうしなかった。いやきっと、そうできなかったのではないか。

 なぜならこれは、「本当のことしか届かない」という信念を核としてきたバンドの物語だからだ。彼らの「あんとき」を描こうとしたら、こうならざるを得なかったということだ。

 だからこそ本書は、表向きの立ち位置を大きくはみ出し、バンドのファン以外も読むに価する重厚な、そして本物のノンフィクションとなったのだ。
 

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あんときのRADWIMPS

『あんときのRADWIMPS  「人生 出会い」編』
著/渡辺雅敏


 
日野 淳(ひの・あつし)
出版社で書籍・雑誌の編集を務めた後に、ライター・編集者として独立。二〇一九年に故郷・宮城県石巻市に出版社・口笛書店を設立。今春、「奇跡の物語」をテーマにした雑誌を創刊するため準備中。▷ 口笛書店

〈「STORY BOX」2021年2月号掲載〉

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