推してけ!推してけ!

各界著名人が、発売間もない単行本をオススメする書評コーナーです。

「推してけ! 推してけ!」第30回 ◆『ぼくはないいろ』(黒田小暑・著)
評者=戸田真琴(文筆家・映画監督) 人間らしすぎるままで、傷口を重ねて 自分より脆い人のことは殴らないと決めている。壊れてしまうかもしれないから。ところが、脆い人間ほど他者への攻撃に暇がない。自らの加害性に気付くにも強さが要る。まさか、自分が他者を侵害しているだなんて、普通は受け入れたくもないからだ。それに
「推してけ! 推してけ!」第29回 ◆『絶縁』(村田沙耶香、チョン・セランほか・著)
評者=鴻巣友季子(翻訳家・文芸評論家) 日本、シンガポール、中国、タイ、香港、チベット、ヴェトナム、台湾、韓国からの九人の作家による豪華なコラボレーションだ。本来、「アンソロジー」というのは、すでに出版された短編を選んできて(そう、anthologyとは語源的にはギリシャ語で「花を摘む」という意味だ)、いい具合に活ける
「推してけ! 推してけ!」第28回 ◆『恩送り 泥濘の十手』(麻宮 好・著)
評者=細谷正充(文芸評論家) 「第1回警察小説新人賞」受賞作!現世に光明を照らす人情捕物帳 麻宮好の『恩送り 泥濘の十手』に関しては、驚くことばかりだ。まず、「第1回警察小説新人賞受賞作」であることに驚いた。えっ、小学館が主催している警察小説専門の新人賞は、「警察小説大賞」ではなかったのか。慌てて調べてみたら、二〇一七
「推してけ! 推してけ!」第27回 ◆『キッチンが呼んでる!』(稲田俊輔・著)
評者=平野紗季子(フードエッセイスト) 聖域としてのキッチンで 私の友人に、スニッカーズにキャラウェイシードをつけて食べる女がいる。なんでもキャラウェイはピーナッツと合うのだという。彼女は受動的な食事をしない。自分の好きな味世界、というものを明確に確立しているから、自炊はもちろん、レディメイドの食べ物が向こうからやって
「推してけ! 推してけ!」第26回 ◆『十二月の辞書』(早瀬 耕・著)
評者=池澤春菜(声優) 水晶の明晰さと透徹性を持ち、時間をかけて育つ物語 水晶のようだ。ゆっくりと、物語は育つ。1992年にデビューし、この30年で、これが6冊目。寡作と言ってもいいかもしれない。ただ、早瀬さんの物語は時間をかけて育つ。水晶の明晰さと透徹性を持ち、二つとない結晶として生まれてくるのだ。氷だったら数時間で
「推してけ! 推してけ!」第25回 ◆『今夜、ぬか漬けスナックで』(古矢永塔子・著)
評者=小寺真理(喜劇女優) 人生はまるでぬか床のようである 主人公の31歳槇生は、自分より年下の亡き母の夫・伊吹が住む瀬戸内海の小豆島に強引に押しかけて同居を始める。周りからは強引で物怖じしないサバサバした性格に見える槇生だったが実は誰にも言えない秘密を抱えていて……。本書は7話の連作短編で、全てがぬか漬けに関するタイ
「推してけ! 推してけ!」第24回 ◆『やっかいな食卓』(御木本あかり・著)
評者=北上次郎(文芸評論家) 六十九歳で初めて書いた小説とは信じられないほど、うまい。まず、文章が滑らかなのだ。これだけで驚く。というのは、新人賞の下読みをやっている者の実感として言うと、素人の書いた文章は、どこかぎくしゃくしていることが多い。いま話しているのは誰なのか、それがわからないことすらある。かといって、それを
「推してけ! 推してけ!」第23回 ◆『レッドゾーン』(夏川草介・著)
評者=池上 彰(ジャーナリスト) あのとき何が起きていたのか コロナに脅える病院の医師たちの奮闘 これは医療の世界を目指す人、必読の書だ。新型コロナウイルス対応のワクチン接種が進み、新型コロナがどういうものか理解と研究が進んだ現在では、恐怖心を抱く人も少なくなったが、いまから二年前の二月は、そうではなかった。当時、医療
推してけ! 推してけ!」第22回 ◆『さんず』(降田天・著)
評者=石井光太(ノンフィクション作家) 自死が織りなす残酷で滑稽な人間劇場 もしあなたが自ら命を絶つとするならば、いかなる理由によるものだろうか。耐え難い苦痛から逃れたいから? わが身に起きた不条理を世に知らしめたいから? 誰かに復讐を果たしたいから? 人間は命を授かった時から生きることへの本能を身につけている。だが、
評者=辻 真先(推理作家・脚本家) 読者も作者とおなじ土俵に立って 日本昔話のミステリ化でヒットを放った作者の新作です。あの有名なお話をどうひねってつないで殺人や密室がからむ話に変奏するのかと、さぞ読者のみなさん(ぼくを含む)は思案しながらお読みになったことでしょう。それに比べれば、今度の趣向はいくらかハードルが低そう
「推してけ! 推してけ!」第20回 ◆『宙ごはん』(町田そのこ・著)
評者=堀井美香(フリーアナウンサー) その一皿に、自分の心までほどかれていく。 最近の私は料理に無頓着だ。今日のポトフも適当な材料を鍋に放り込んだだけ。いや、最近に限った話ではない。仕事と子育てで忙しかった頃は、母として手作りの料理を食べさせているという既成事実が大事だった。いつもせわしなく済ませる食事の中で、手作りと
「推してけ! 推してけ!」第19回 ◆『夏が破れる』(新庄 耕・著)
評者=橘 玲(作家) 「いやな感じ」に魅せられて 冒頭のバンコクの場面から、新庄作品に独特の「いやな感じ」が漂ってくる。今回の主人公・進は三十代半ばの厚生労働省の官僚で、タイの日本大使館に赴任している。タイは中進国に経済成長したが、依然、少年・少女の売買春などのトラフィッキング(人身取引)が国際問題になっている。その被
「推してけ! 推してけ!」第18回 ◆『百年厨房』(村崎なぎこ・著)
評者=植野広生(「dancyu」編集長) 時代を超えて、食がみんなを笑顔にする 栃木県宇都宮市の北部に位置する大谷という町が舞台だ。市役所職員である主人公の大輔は、過去のトラウマから人と食事をすることを避け、一人で静かに暮らしていた。しかし、宝塚系の派手やかな友人の篠原、隣家のヨシエ婆、さらには大正時代からタイムスリッ
「推してけ! 推してけ!」第17回 ◆『コスメの王様』(高殿 円・著)
評者=中江有里(俳優・作家) 二匹の「子狸」が大化けした物語 コスメティックスの語源はコスモス=宇宙であると著名な画家から聞いたことがある。人間はこの地球上で自分たちが異質の存在であると知り、化粧(コスメ)をすることで宇宙との同化を試みたという。日常的な化粧を壮大な宇宙と絡めて考えることはないが、化粧は単に身だしなみと
評者=安藤桃子(映画監督) パラレルで、ミルフィーユ 「銀座四丁目交差点の角にある和光。その大時計の針が十時十分を指している。映画はそこから始まる。」という文章から、『ミニシアターの六人』は始まる。小説の舞台は銀座のミニシアター。2年前に他界した、末永静男という映画監督の追悼上映作品『夜、街の隙間』を観に来た6人の
「推してけ! 推してけ!」第15回 ◆『かすがい食堂 あしたの色』(伽古屋圭市・著)
評者=内田剛(ブックジャーナリスト) 共に食べれば心も未来も色づく! 駄菓子屋は誰でも安らげる心の故郷だ。そして親子二代三代にわたって親しまれてきた懐かしき日本の原風景でもある。通い慣れた学校の近くにあって安心なイメージ。ちょっと古びた店先であっても、店主が見つめるのは街の変化と子どもたちの成長。おまけを楽しんだりゲー
「推してけ! 推してけ!」第14回 ◆『彼女が最後に見たものは』(まさきとしか・著)
評者・黒木 瞳(女優) 見えているものだけが真実ではない。 『あの日、君は何をした』の『君』の謎を、ひとつひとつ丁寧に解いていく刑事、三ツ矢が再登場の、『彼女が最後に見たものは』を読んだ。まさきとしかなる作家の底力は半端なく、未知なる可能性は果てしなく拡がっていることを改めて実感する。読書好きにはたまらない一冊、『彼女
評者・相場英雄(作家) 盛り盛りの毒が全開! 超法規的捜査! 佐野晶という作家は不思議な人物だ。私を含め、作家を生業とするような人間は大概世間に順応できない変わり者、捻くれ者が多いが、その中でも同氏はかなり異質な存在だといえよう(褒めてます、念のため)。約二〇年前の見習い時代、勝手に師匠と仰ぐ大先輩作家からこんな言葉を