『滅びの前のシャングリラ』凪良ゆう/著▷「2021年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR

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絶望しかない世界で希望を描く


「本当にすごい作品は、最初の原稿で編集者の想像を越えてくるものなんだよ」

 定年を控えた上司が以前言っていた言葉です。『滅びの前のシャングリラ』は私にとって、まさにそんな作品でした。最初に原稿を受け取ったのは2020年の2月。テーマは「地球滅亡」と打ち合わせをしているし、ストーリーもすべて事前に聞いています。なのにラストシーンを読んだとき、想像していたのとはまったく違う正体の分からない感動に包まれ、しばらく立ち上がることができませんでした。

 それから刊行日である10月8日まで、良いことも悪いこともたくさんありました。まず、著者の凪良ゆうさんが『流浪の月』で本屋大賞を受賞したこと。書店員の皆様に支えられ、一躍人気作家となった凪良さんを横目に、密かに『滅びの前のシャングリラ』で本屋大賞受賞、という言葉がちらついていた私は、半分嬉しく、半分悔しい気持ちでした。

 ですがそれ以上に衝撃的だったのが、新型コロナウィルスの感染拡大でした。本屋大賞の受賞パーティはなくなり、凪良さんは応援してくれた方々にお礼も言えぬまま、多くの書店が休業となりました。たくさんの方が命を落とす中で、「地球滅亡」という言葉はフィクションとして捉えられなくなり、「いまこの小説を出すべきではないのではないか」と凪良さんと頭を悩ませました。

 そんな気持ちから救い出してくれたのも、書店員さんの声でした。「今の時期にこの作品を読めて良かった」。プルーフ(本のパイロット版)を読んだ多くの書店員さんが、このような感想をくださいました。私はこの感想を読んで、最初に味わった感動の正体が分かりました。「地球滅亡」という絶望しかない物語の中で、凪良さんは希望を描ききっていたのです。ならばこの小説は今、不安を抱えて生きる人たちに、希望を与えることができるのではないか。そう考え、予定通りの刊行を決めました。そして昨年の受賞者にもかかわらず、今年も本屋大賞にノミネートとなったと聞いたとき、本当にいま、刊行することができて良かったと、こみ上げる思いを抑えきれませんでした。

『滅びの前のシャングリラ』凪良ゆう/著
書店員さんからいただいたたくさんの感想

 まだしばらく、不安な日々は続くのだと思います。絶望を抱えている人もいると思います。ただ、これからもこの作品が一人でも多くの方の支えになることを、心より願ってやみません。

──中央公論新社 文芸編集部 金森航平


2021年本屋大賞ノミネート

滅びの前のシャングリラ

『滅びの前のシャングリラ』
著/凪良ゆう
中央公論新社
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