物語のつくりかた 第7回 植松伸夫さん (作曲家)

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 世界で1億本以上を売り上げた人気RPG「ファイナルファンタジー」シリーズをはじめ、ゲーム音楽の作曲で広く知られる植松伸夫さん。現在はゲームだけでなく、自身のレコード・レーベル「DOG EAR RECORDS」を運営するほか、バンド「EARTHBOUND PAPAS」での活動など、さまざまな形で精力的な表現を続けている。

 音楽は子供の頃から大好きでした。きっかけは、小学校4年生の時にたまたま連れて行かれた、ウィーン少年合唱団の公演です。音楽とはこれほどまでに美しいものなのかと、生まれて初めて音に対して感動を覚えた、衝撃的な体験でした。

 しかし当時は、「音楽なんて男がやるものじゃない」と思っていたので、やりたくても口に出さずに黙っていました。そういう時代だったんですよね。

 ある日、姉が読んでいたアイドル雑誌に、流行りの曲の譜面が載っているのを見つけたので、家に転がっていたギターを持ち出して、タブ譜を頼りにいくつかのコードを弾いてみたんです。すると、まったくの素人なのに、思いのほかちゃんと音楽になった。これが僕としては大きくて、「音楽ってこんなに簡単にできるんだ」と実感したことが、自分の人生を変えたように思います。

 海外のロックバンドのメンバーに、鍵盤奏者がちらほら登場し始めたのも、ちょうどその頃でした。エレキギターやドラムの編成にオルガンが入ったり、エルトン・ジョンがピアノを弾きながら唄ったり。それが凄く格好良く見えて、中学から大学までは、熱心にバンド活動に取り組むようになりました。

CM曲からポルノ映画まで何でも手がけた下積み時代

 もともとの生まれは高知県ですが、大学は神奈川大学の外国語学部へ進みました。これは英語が比較的得意だったからという単純な理由なのですが、親元を離れて自由に音楽をやろうとの思惑もありました。

 卒業後は就職もせず、音楽活動を続けながらのバイト生活が続きます。この時期はとにかくお金がなくて、いろんなバイトを経験しました。印刷工場や交通整理、さらにはジュースの瓶を一晩中検品する仕事まで……。そんなある日、シロアリ駆除のバイトで民家の床下に潜りながら、ふと思ったんです。自分は音楽をやると決めたはずなのに、大学まで出してもらって何をやっているのか、と。

 それから真剣に求人誌をチェックし始めるものの、音楽関係の募集はすごくレアで、なかなか見つかりません。それでもめげずに毎日求人を探し、ようやく見つけた音楽制作会社に、デモテープを送ることにしました。

 返事なんて来なくて当たり前。それでも、何か反応があるまで送ってやろうと、ルーティンワークのようにデモテープを作り、毎日送り続けたんです。すると、45日目についに返事が来て、「キリがないからとりあえず会ってやる」と(笑)。今ならストーカー扱いですよね。

 ともあれ、そこから少しずつ作曲の仕事が舞い込むようになります。この時期は音楽に関わる仕事ができるだけで嬉しくて、地方のCM曲や日活ロマンポルノなど、頼まれれば何でもやっていました。

 そこからゲーム音楽を手がけるようになったのは、本当に偶然でした。

 当時、僕は横浜市の日吉に住んでいたのですが、食えない奴の周りには食えない奴が集まるもので、作家や写真家志望で「いつかビッグになってやる」という連中が集まって、夜な夜な安酒を飲むのが常でした。そこに、ゲーム会社に勤めているという女性が、誰かの紹介で連れてこられたんです。それがスクウェア(現スクウェア・エニックス)との縁の始まり。彼女に「植松さんはゲームの作曲に興味はありますか?」と聞かれて、こっちは音楽で金がもらえれば何でも良かったので飛びついたわけです。

 意外に思われるかもしれませんが、曲を作ること自体は、さほど難しいことではありません。

 作曲家にはこういうタイプが少なくないと思いますが、歯を磨いていても風呂に入っていても、頭の中には常に何かしらのメロディが流れている。曲を作れと言われたら、そこから相応しいものを選んで仕上げればいい。たまに、「作曲のコツを教えてください」と言われることがありますが、方法を人に聞いている時点でダメでしょう。いつでも自分の中にメロディが流れている人たちがしのぎを削っている世界ですからね。

 つまり、これまで聴いてきた音楽の量がものを言うのだと思います。僕自身、若い頃はとくにインプットを意識して、あえて自分の知らない音楽を選んで、毎日聴いていたものです。

作曲とは音符の海から一つの正解を探す作業

 ちなみに、僕が「ファイナルファンタジー」を手がけ始めた頃のゲーム音楽は、三つの電子音や、ザーッというノイズの組み合わせでやるしかない世界でした。でも、そういうガチガチの制限の中で作曲をするのは新鮮で、むしろ楽しかったですね。原チャリの枠組みの中でスーパーカブを創り出したように、日本人は自由な環境を与えられるより、制限されるほど知恵を働かせて工夫することに長けているのではないかとすら思います。

 そのうちシリーズが進むに連れて、少しずつゲーム機の機能が上がり、やがてスタジオで収録した音源をストリーミングで流せるようになりました。おかげで今はどんな音でも表現できるようになりましたが、その反面、かつてのようにゲーム機ごとの特徴や個性が消えてしまったのは、少しつまらなく思います。

 作曲というのは広大な音符の海の中から、"これさえ見つければ"という一つの正解を手繰り寄せる作業に近いと思います。モーツァルトなどは、その正解への辿り着き方を熟知していたから、短い生涯であれほどの数の作品を残せたのかもしれません。
 

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ファンクラブ限定イベントでは新たな試みも

 

「ファイナルファンタジー」の音楽を作る際は、最初に全体の物語の骨子を見て、自分なりに世界観を咀嚼しながら曲をつけていくことになります。シナリオも同時進行ですから、これはけっこう大変な作業です。スクウェア時代は「あのキャラ、どんなデザインになった?」とか、隣りの部署にすぐ聞きに行けたのでまだよかったのですが、フリーランスになった今は想像で補うしかありません。

 でも僕の場合、RPGに出会えたことはラッキーだったと思います。これほどいろんな曲をやらせてもらえるジャンルは、他にないですから。

 たとえばバトルシーンでは、大好きなプログレッシブロックに倣って、変拍子や転調を取り入れるなど、ギミックの利いたメロディをつけてみたり。僕はチャイコフスキーなどのクラシックも好きなので、オープニングにはそういった壮大なテーマを作ってみたり。あるいは、主人公が森の中を歩いているようなシーンではアイリッシュ調の曲を、悲しいシーンでは古いヨーロッパ映画で流れそうな、悲哀があってちょっと感動を呼ぶ曲を意識してみたり。僕は雑食性なのでどんな音楽でも聴くんですが、それらを自由にやらせてもらえる環境がありました。

 そんな僕も来年には還暦を迎えますから、そろそろ今までとは違う表現にもっと時間を割いていきたいと思うようになりました。文章を書くのも昔から好きで、コラムを書いたりしてきましたから、今後こうした活動も少し増やしていければと考えています。

 すでにファンクラブ向けのイベントなどで少しずつ着手しているのは、自分で創った物語に絵を描いてもらって、それに音楽を添えて朗読と一緒に上演するやり方。これなら、RPGのように何十時間も費やすことなく、30分程度で伝えたいものが表現できます。これが今、自分にとって一番楽しい表現手法なんです。

 CMも映画もゲームも、作曲という視点ではさほど違いは感じません。そうしたメディアの違いより、僕がいつも意識しているのは、おしゃべり感覚で伝わる音楽。音楽とは本来そういうものであるはずで、音楽が与える感動とは"共感"です。創り手の思いが伝わって初めて、音楽は完成するもの。わかりやすい音楽で、多くの人に理解され、感動してもらえるのが自分にとってベストなんです。

(構成/友清 哲 撮影/田中麻以)


植松伸夫 (うえまつ・のぶお)
1959年高知県生まれ。86年スクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。「ファイナルファンタジー」シリーズなど多くのゲーム作品の音楽を手掛ける。99年フェイ・ウォンに楽曲提供した「ファイナルファンタジー VIII」のテーマ曲「Eyes On Me」で第14回日本ゴールドディスク大賞「ソング・オブ・ザ・イヤー(洋楽部門)」受賞。2001年5月「TIME」誌にて「現代の音楽における革新者のひとり」、07年7月「Newsweek」誌にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。

 

植松伸夫さんをもっと知る
Q&A

Q1. 夜型? 朝型?

A1. 今は朝型です。5時から作曲していることも珍しくありません。

Q2. 犬派? 猫派?

A2. 犬派です。会社のロゴも愛犬をモチーフにデザインしています。

Q3. お酒は飲みますか?

A3. 飲みます。好きなのはビールやワイン、日本酒ですね。

Q4. 好きな映画は?

A4. たくさんありすぎて、即答できません。自宅の地下に130インチのスクリーンを置いたほど映画好きなのですが、最近は時間がなくて全然活用できていません……。

Q5. 愛読している雑誌は?

A5. かつて「月刊ムー」。今は「BE-PAL」。

Q6. 好きなゲームは?

A6. スーパーマリオ。言葉が不要で誰もが楽しめ、一切の悪意が介在しない。ゲームはこの作品で完結していたのではないかとすら思います。

Q7. 仕事をする際の必需品は?

A7. 僕はいまだにMacのOS9環境じゃないと動かない、「Vision」という音楽制作用のシーケンサーを使っています。

Q8. 思いついたメロディをメモするツールは?

A8. 昔はボイスメモを使っていましたが、キリがないので最近はやめました。今はオンオフの切り替えを大切にしています。

Q9. あこがれの人は?

A9. 自分にないものを持っているすべての人。

Q10. 今一番ほしいものは?

A10. 仕事を辞める勇気。お金を得るためにエネルギーを費やすのは、そろそろ控えていきたいですね。


 

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植松伸夫の奏でる新たなファンタジー!

全曲の作詞作曲を手掛けた"ウエマツ度 100%"なメロディによって語られる10篇の物語と"楽しく生きるコツ"。

作詞・作曲・音楽プロデュース:植松伸夫
音楽制作・配信:株式会社ドッグイヤー・レコーズ

▼植松伸夫さんオフィシャルウェブサイト
http://www.dogearrecords.com

(「STORY BOX」2018年8月号掲載)