◉話題作、読んで観る?◉ 第24回「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」

◉話題作、読んで観る?◉ 第24回「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」

監督・脚本:片渕須直/音楽:コトリンゴ/声の出演:のん 細谷佳正 稲葉菜月 尾身美詞 小野大輔 潘めぐみ 岩井七世 牛山茂 新谷真弓 花澤香菜 澁谷天外/配給:東京テアトル
12月20日(金)より全国公開
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 2016年に公開された片渕須直監督の劇場アニメ『この世界の片隅に』は異例のロングランヒット作となり、ブルーリボン賞監督賞など多くの映画賞を受賞した。新しいシーンを加え、再構成したのが『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』だ。オリジナル版をすでに観ている人も、より深く楽しめる内容となっている。

 戦時下の広島市江波から軍港として栄えた呉市へと嫁入りした平凡な女性・すず(声の出演:のん)と、彼女を取り巻く市井の人々の物語。絵を描くこと以外は何の取り柄もないすずが、物資不足から代用品を使って家事に勤しむ様子が、ゆったりとユーモラスに描かれる。

 上映時間2時間9分のオリジナル版はこうの史代の原作コミック全3巻をギュッと濃縮化したような味わいだったが、30分近く尺が増えたことで独自のコクを持つ新作に生まれ変わった。

 オリジナル版とのいちばん大きな違いは、遊郭で働く白木リン(岩井七世)とすずとの交流を描いたエピソードが大幅に加わったこと。すずの夫・周作(細谷佳正)とリンとの間にかつて男女の関係があったことに、すずは気づく。オリジナル版に比べ、すず、リン、周作の三角関係が明確に浮かび上がる。

 経済的に恵まれない家庭に生まれたリンだが、「この世界でそうそう居場所はのうなりゃせんよ」とたくましく生きている。そんなリンはじめ、さまざまな人たちが街の片隅でそれぞれ懸命に生き、別の片隅で生きる人たちと触れ合い、受け入れることによってこの世界は成り立っていることが分かる。名もなき人々の暮らしを見つめる片渕監督の視線が温かい。

 やがて戦争は激化し、すずやリンの頭上にも戦火が降りかかる。敵機から投下された爆弾は容赦なく、すずがようやく見つけた世界の片隅さえも簡単に吹き飛ばしてしまう。絵筆を持つための大切な右腕をすずが失うシーンは、ストーリーをすでに知っていても衝撃的だ。

 オリジナル版を1、2度観ただけでは、物語の終盤にすずの頭をなでる〝白い腕〟の正体を理解できずにいたが、長尺となった本作をじっくり観ることで、宙に浮かぶ白い腕は〝もうひとつの未来〟を示唆するもののように思えてきた。もちろん白い腕の正体は、観た人によってさらにいくつもの解釈が生まれるに違いない。

(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2020年1月号掲載〉

原作はコレ☟
『この世界の片隅に』
『この世界の片隅に』
こうの史代
(双葉社)