『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈/著▷「2024年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR
かつてなく最高の主人公、現る!
そういえば小さな頃は、なんにだってなれる気がしていました。
幼稚園では「ケーキ屋さんになりたい」と言っていたけど、音楽家も素敵だし、大好きな本を書く人やつくる人も面白そう、などと思っていました。
そんな夢みたいなことを言ったらバカにされるんじゃないかと思い始めたのは、いったいいつからだったのでしょう。
『成瀬は天下を取りにいく』を何度目かに読み返した時、そんなことを思い出しました。
本作の主人公・成瀬あかりは、いつだってスケールの大きなことを口にします。将来の夢は、200歳まで生きること。そのために、できることからコツコツと。毎日歯を磨いて、規則正しい生活をし、危険な場所には近づかない。
他にも、中学二年生の夏を「西武に捧げる」と宣言し、閉店を控える西武大津店に毎日通ったり、「お笑いの頂点を目指す」とM-1グランプリに挑戦したり。その様をずっと見てきた幼馴染の島崎には「ほら吹きとどう違うの」と言われ、「同じだな」と認めたりもしていますが、それでも成瀬は「日頃から口に出して種をまいておくのが大事」だと言い、我が道を突き進みます。読んでいくうちに、次は一体何をしてくれるのだろう、とワクワクし、その一挙手一投足から目が離せなくなるのです。
そんな成瀬たちの物語は、我々の普段の生活の先に、いかにたくさんのキラキラした可能性が転がっているかを気づかせてくれます。
子どもだけじゃなく大人だって、未来の可能性に思いを馳せることは、断じて人に笑われるようなことじゃない。成瀬曰く、「先のことなんてわからない」のですから!
この言葉は、本作で一躍鮮烈なデビューを飾った著者の宮島さんご自身の姿ともどこか重なります。一度は小説家になることを諦め、筆をおいたこともあるという宮島さんが、その後再び書き始めてくれて、リズムよくユーモアあふれる筆致にぴったりな成瀬たちの物語を生み出してくれて、本当によかった。
おかげさまで発売前プルーフの段階から、社内でも書店員さんの間でも、成瀬ファンが続出した本作。その魅力が伝わるコピーを、と悩みに悩みましたが、12人の著名人の方が寄せてくださった素晴らしいコメントを帯にも全部詰め込みたかったので、ごくシンプルに「かつてなく最高の主人公、現る!」としました。
そんな最高の主人公に私自身も魅了されつつ、実は編集者として一番共感してしまうのは、島崎です。世界の見え方を鮮やかに塗り替えてくれるような成瀬のことを、できる限りそばで見ていたいと思う島崎の気持ち、わかる、わかるよ~~!
成瀬あかり史と同じように、作家・宮島未奈史も、きっとまだ始まったばかり。宮島さんの紡ぎ出す小説がこの先私たちにどんな景色を見せてくれるのか、本当に楽しみです。
読者の皆さまも、まずはスタートを切る本作から、ぜひご一緒ください。
──新潮社 出版部 西山奈々子
2024年本屋大賞ノミネート
『成瀬は天下を取りにいく』
著/宮島未奈
新潮社
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