むちゃぶり御免！書店員リレーコラム＊第13回

　私の学生時代は決して楽しいものではなかった。かといって辛いものでもなかったのだが。

　特に何も考えず、家と学校の往復だった。「無気力」という言葉がピッタリだったかもしれない。何の楽しみもなく、親と先生のいう事を聞く。それが当たり前だった。

　親友と呼べる友達もおらず、修学旅行も文化祭も、面倒くさいから不参加だった。

　当時の私は淡々と日々を過ごしていたのだ。アオハルとは程遠い、灰色の世界だった。

　そして今に至る。そんな私が出会ってしまった!!

「成瀬」に出会ってしまったのである。

　何て面白い考え方をする子だろう。行動力もすごい。

　こんな子が周りに、友達にいたらもっと楽しい時間が過ごせたのではないだろうか。あの頃の私にこの本を読ませたい。あの頃の私が読んだらもっとわくわくしたのではないだろうか。成瀬のような友達がそばにいてくれたら、修学旅行も文化祭も楽しめたのではないだろうか。

　テレビに映るとか、Ｍ−１に出るとか、そんな大きな夢じゃなくても毎日に張りがあり、笑って過ごせていたかもしれない。

　友達と学校帰りにアイスを買ったり、ウィンドーショッピングをしたり、そんな小さな楽しみがあったかもしれないよ。と、あの頃の私に教えたい。

　それだけ、成瀬・島崎コンビにハマってしまった。

　過去にも今の人生にも不満がある訳じゃない。

　だが、成瀬を知ってしまった今、これからの私の人生はもっと楽しくなる気がする。

　わくわくが止まらない。

『成瀬は天下を取りにいく』
宮島未奈
新潮社

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髙見晴子（たかみ・はるこ）
文芸担当。カラオケとミステリーが大好物。

【次のお題】
犯人は誰？？悩みに悩んで最後はスッキリする、おすすめミステリーは？
【答える人】
BOOKSえみたす ピアゴ植田店　清野里美さん
　
本連載は、「〇〇な時に読む本」というお題で、書店員の皆様に「推し本」を紹介していただきます。〇〇部分は、前号執筆した方が、次の執筆者に対して提案します。

〈「STORY BOX」2023年9月号掲載〉