◎編集者コラム◎ 『十津川警部 四国土讃線を旅する女と男』西村京太郎

◎編集者コラム◎

『十津川警部 四国土讃線を旅する女と男』西村京太郎


『十津川警部 四国土讃線を旅する女と男』写真

「本の窓」での連載を経て、2021年に単行本として刊行された『十津川警部 四国土讃線を旅する女と男』。連載の最中、2020年ごろはパンデミックが瞬く間に広がり、先の見えない状況が続きました。そのような中でも変わらずにFAXでお送りいただいた原稿の、先生の手書きの字を見るとほっとしたものです。

 単行本が刊行されたその翌年、3月に西村先生が逝去され、残念ながら本作が小学館での最後の作品となってしまいました。次にお願いする連載のテーマも決まり、とても楽しみにしていた矢先のことで、今の東京を舞台に先生はどのような物語を展開されたのか、と妄想は膨らむばかりです。

 本作では、同じ会社の秘書の女性と課長補佐の男性が綿密な計画のもと、四国四県の名所を巡っていきます。読んでいるうちに、いつのまにか一緒に旅をしているような気分になります。旅の最終日には、タイトルにもある「四国まんなか千年ものがたり」という印象的な名を持つ列車が登場。香川県多度津駅から徳島県大歩危駅、四国山地を縦断する土讃線の中間エリア、まさに四国のなんなかを走る三両編成の観光列車です。多度津発のルートの場合、スイッチバックのある秘境駅の坪尻を過ぎると、終点の大歩危までは吉野川に沿って走ることになります。風光明媚な車窓からの眺め、いよいよ大歩危に向けて旅も終わりに近づくというシーンで突然の爆発が発生。物語はこれをきっかけに大きく動きはじめます。爆発は事故か事件か。事件だとしたら狙われたのは誰か。ここからはおなじみの十津川警部が真相に迫っていきます。AI開発という要素も絡まって物語は二転三転し、最終章のスリリングなやり取りまで目が離せません。

 単行本に続き、表紙には香川在住のカメラマン・坪内政美さんの写真を使わせていただきました。単行本時と車両の色が違っているのにも注目です。坪内さんはスーツを愛用し、愛車セドリックで全国を飛び回られている異色の鉄道カメラマン。セドリックとの日々を綴った『100万キロ走ったセドリック』という本を、今年上梓されています。

 また、ご解説は、推理小説研究家の山前譲さんにいただきました。本作についてはもちろん、四国の鉄道と列車、その歴史、そして過去の西村作品についてと、幅広く深く盛り込んでくださっています。解説文の6ページだけでも読み応えたっぷりの内容となっています。

 旅とミステリを同時に楽しめる西村作品の醍醐味、ぜひご堪能ください!

──『十津川警部 四国土讃線を旅する女と男』担当者より

十津川警部 四国土讃線を旅する女と男
『十津川警部 四国土讃線を旅する女と男』
西村京太郎
萩原ゆか「よう、サボロー」第54回
採れたて本!【歴史・時代小説#19】