◎編集者コラム◎ 『十津川警部捜査行 愛と哀しみのみちのく特急』西村京太郎

◎編集者コラム◎

『十津川警部捜査行 愛と哀しみのみちのく特急』西村京太郎


十津川警部捜査行 愛と哀しみのみちのく特急

 西村京太郎先生は、89歳となった2019年も第一線で大活躍されました。毎月のように新刊が刊行され、デビューされてからの新刊点数は630冊を超えました。と言っても、西村先生はすぐに売れっ子作家となった訳ではありません。1963年にオール讀物推理小説新人賞を受賞され、65年には江戸川乱歩賞を受賞、その後しばらく経った、1978年に発表された『寝台特急殺人事件』がベストセラーとなってからです。その後の40年の作品の多くは、十津川警部が捜査を進めるトラベルミステリーになっています。

 先日、フジテレビで放映された『タイプライターズ~物書きの世界~』では、MCの又吉直樹(ピース)と加藤シゲアキ(NEWS)の二人に、作品作りやご自身のことについて、エピソードを交えて語っていらっしゃいました。やはり出版社からは「トラベルミステリーで」という依頼になってしまうことにも触れていました。

 さて、本書は十津川警部が中心となって捜査を進める5作品を収録した作品集です。長編小説は、ミステリーと同等に人間ドラマやテーマ性が強く出た作品も多い中、本書に収録された短編では、鉄道ミステリーの王道と言っていいトリックやアリバイが散りばめられています。

 例えば、今回収録された「急行べにばな殺人事件」では、自身の高校の同窓会に出席した同僚の亀井刑事が殺人事件の容疑者となってしまうという事件の捜査を進めます。そこでは、列車の運行ダイヤに基き真犯人が仕組んだ巧みなアリバイがあるのですが、十津川警部はその鉄壁のアリバイを見事な推理で崩していきます。

 また、本書に登場する列車には、この「べにばな」をはじめ、「ゆうづる」や「あいづ」など廃止された列車もあり、鉄道ファンには懐かしいことでしょう。

 東北地方を舞台にした十津川警部作品は、多数あります。本書の「解説」で、推理小説研究家の山前譲さんは、「気候的に厳しい北の大地は、雰囲気的にミステリーに向いているのかもしれない。」と書かれています。情景を浮かべながら、お楽しみ下さい。

──『十津川警部捜査行 愛と哀しみのみちのく特急』担当者より
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