梅津かおり『グッド・シスター』

姉妹のあいだのあいまいな境界線
本書に目を留めてくださったみなさんにまずお伝えしたい。できるだけ事前知識なしでこの小説を読んでみてほしい。ジャンルとしてはミステリーとかスリラーに入るのかもしれないが、そんなカテゴライズを意識せずに読み進めていくと、なんとも不思議な読書体験になることまちがいなし!
そうは言っても、何も語らないわけにもいかないので、作品の内容に少しだけ触れてみよう。舞台はオーストラリア、メルボルン。主人公はこのクラシックな街並みと緑豊かな土地に暮らす双子の姉妹ローズとファーンだ。貧しいシングルマザーの家庭で育ったふたりは、幼いころから助け合って生きてきた。とくに姉ローズは、感覚過敏からときどきメルトダウンを起こす妹ファーンの面倒をずっと見てきて、20代後半になった今もその関係は続いている。そしてそんなふたりを深く結びつけているもの、それは子供時代に経験したある悲惨な出来事だった。
結婚して夫のいるローズが不妊に悩んでいることを知ったファーンは、姉のために自分がかわりに子供を産むことを決意する。そんなとき、たまたま勤め先の図書館でちょっと風変わりな男性ウォーリーと出会う。さっそくウォーリーをデートに誘い、妊娠の計画を立てるファーンだったが……
本書は〝姉妹関係〟をテーマにした作品であり、家族小説としても愉しめるだろう。きょうだいだからこそ抱く愛憎。それは赤の他人に抱くそれとは少しちがっているのかもしれない。その微妙な関係性をうまく物語に絡めて、読者を徐々に不穏な世界へと導いていく。くすっと笑わされたり、ほんわか癒やされたり、ぎゅっと胸を締めつけられたりしているうちに、まさかまさかの展開に。読み終わったあとは、スッキリとモヤモヤとが混在したどうにも割り切れない気持ちになる。
著者のサリー・ヘプワースはオーストラリア出身のベストセラー作家だが、日本で紹介されるのは本書がはじめて。また、オーストラリアに移住経験があり、家族問題にも造詣の深い、エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんが解説を書いてくださっている。
ドメスティック・スリラーの名手が放つ新感覚の世界をどうぞたっぷりとご堪能あれ。
梅津かおり(うめづ・かおり)
山口県(周防大島)生まれ。翻訳者。早稲田大学卒業。訳書にM・P・ハディックス『シャドウ・チルドレン』シリーズ、E・ムーンハート『まほう少女キティ』シリーズ(以上、小学館ジュニア文庫)、L・スコット&R・ウエストコット『わたしはスペクトラム』(小学館)、G・マカリスター『ロング・プレイス、ロング・タイム』(小学館文庫)など。