◎編集者コラム◎ 『鋳物屋なんでもつくれます』上野 歩
◎編集者コラム◎
『鋳物屋なんでもつくれます』上野 歩
鋳物は紀元前4000年頃にメソポタミア地方で始まったそうです。古くから使われている技術ですが、今でも文房具や電子部品のような小物から建材、ロボット、航空機、宇宙ステーションに至るまで、幅広い分野で利用されているのです。現在の最大の用途は自動車用です。日本は世界第4位の鋳物生産国ですが、そのうち自動車用が6~7割を占めるということです。
鋳物というと「町工場」を思い浮かべる人が多いのでは。鋳物屋は、1990年代には1800社あったそうですが、現在は600社ほどになっているそうです。その一番の原因は後継者不足です。汚い、きつい、危険――いわゆる3Kといわれる仕事を、若い世代が継ぎたがらないからです。
本書の主人公は、清澄流花(ルカ)。祖父の勇三が作った清澄鋳造に入社しました。営業担当ですが、女性ながら湯の流し入れも行う〝鋳物オタク〟です。大手の取引先を相次いで失うことになり、大ピンチに。瀕死の会社を守るために大胆な改革を図ろうとしますが、会社には従来のしきたりと、経験とカンを誇る職人たちがいました。
亡き祖父ならどうしただろうか。ルカは勇三の人生を知りたいと思い、祖母の志乃に話を聞きます。勇三は、戦争中は飛行兵を志願し、戦後は木型屋から鋳物屋へと仕事を変え、必死に仕事をしました。辛い別れも経験しながら、会社を大きくしていったのです。
ルカは持ち前の行動力と熱意で、会社の危機を救います。さらに、鋳物の新しい可能性を広げていこうとします。それは、冒頭に思い描いた「鋳物屋」のイメージとはすっかり違ったものになりました。これは、読んでのお楽しみということにしておきましょう。
解説を書いて下さった増田明美さんは、〝小説としてのストーリーをドラマチックにしているのが「オリンピック」なのです。〟と書きました。勇三とルカそれぞれが、1964年と2020年のオリンピックに、鋳物という技術で挑戦しました。果たしてその結果は!? これも触れずにおきましょう。
本書は、小説誌「きらら」で途中まで連載された、文庫オリジナルです。
鋳物という世界を見せてくれて、ルカに元気をもらえるお仕事小説です。
ちなみに、上野歩さんが小学館で刊行された小説はすべて製造業が舞台ですが、「理容室」や「市役所」を舞台にしたお仕事小説を、他社では刊行されています。
──『鋳物屋なんでもつくれます』担当者より