『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ/著▷「2021年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR
「この作品を売らなかったら、私は編集者失格だ!」
町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』第一稿を読んだのは、忘れもしない2019年12月末。仕事納めの前日でした。
町田さんとはこれが初めてのお仕事、そして初長編作品に挑戦していただいたこともありすぐに読みはじめたところ、もの凄い衝撃を受けたことを今でも覚えています。
まず、読む手が止まりません。大分に逃げるように住み着いた主人公・貴瑚の過去には何があったのか? 彼女が心の支えにしているアンさんって誰? アンさんは遠くに行ってしまったってどういうこと? そして主人公が偶然出会った「52」とは――。
詳しい内容は、本作を読んでほしいので割愛します。(冒頭試し読みは「婦人公論.jp」にありますので、そちらをチェックしてください)
何度も涙を流しました。ティッシュ1枚では拭ききれず、5枚ほどをぐしょぐしょにして、更に鼻をかみすぎたのか鼻血まで出しながらページを捲り終わった時、私が最初に思ったのは「こんな凄い作品をいただいてしまったからには、今作を売らないと私、編集者として失格だ!」というものでした。
翌日、朝一で出社して、原稿を10部以上コピーすると、会社中に配りながら「2020年、私はこの作品を絶対に売りたいです!」と宣言して回ったほどです。装幀も、気合いを入れて仕上げました。
準備万端で刊行日を迎えた2020年4月下旬でしたが、緊急事態宣言下ということもあってか、正直、出足はそれほどかんばしいものではありませんでした。しかし、営業部が一丸となって、「担当編集者が鼻血を出すぐらいの作品だ」と粘り強くプッシュし、それに応えた全国の書店員さんたちがずっと店頭に置いて、作品を支え続けてくれました。
あるテレビ番組で特集されて以降は、反響が一気に広がりました。気づくと「読書メーター OF THE YEAR 2020 第1位」「『王様のブランチ』BOOK大賞2020 受賞」「未来屋小説大賞 大賞受賞」など、たくさんの冠をいただき、ついには「本屋大賞ノミネート」まで辿り着いていました。
本当に有難いと思っています。私もまだ編集部にいられるなと、ホッとしているところでもあります。
『52ヘルツのクジラたち』は、まだまだ多くの人に読んでほしい、読んで、感じて、考えてほしい作品です。私の鼻血を信じてくれるなら、「世界一孤独な鯨たち」を描いた今作に、手をのばしていただけると嬉しく思います。
──中央公論新社 文芸編集部 山本美里
2021年本屋大賞ノミネート
『52ヘルツのクジラたち』
著/町田そのこ
中央公論新社
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