◎編集者コラム◎ 『警部ヴィスティング 鍵穴』著/ヨルン・リーエル・ホルスト 訳/中谷友紀子

◎編集者コラム◎

『警部ヴィスティング 鍵穴』著/ヨルン・リーエル・ホルスト 訳/中谷友紀子


 前作『警部ヴィスティング カタリーナ・コード』は、おかげさまで2021年版「このミステリーがすごい!」〈海外編〉第7位に選ばれました。本当にうれしい出来事でした。そして応援してくださった皆さま、本当にありがとうございました。心からの感謝を申し上げます。内輪の話をすれば、編集部で翻訳ミステリを専門的に扱っている編集者は、たったの2人です。伝統ある翻訳ミステリの版元と、その力の差を想像していただきたいのですが、私たちは本当に非力です。ほぼインディーズです。それにしては頑張っているなとお思いになって、これからもいっそうの応援をお願いいたします。どうか。

 

 閑話休題、3月刊文庫として、ヴィスティング・シリーズの新作『警部ヴィスティング 鍵穴』をお届けします。

 装画は前作同様、光嶋フーパイさんにお願いしました。フーパイさんといえば、伝統ある翻訳ミステリの版元の一つから出ている大ヒット作『犯罪心理捜査官セバスチャン』シリーズの、あの絵を描いた方です。あのセバスチャンと同じように、ヴィスティングも多くの読者に知っていただきたいと思っています。 

 

 今回の物語は、ヴィスティングがノルウェーの検事総長に呼び出されるところから始まります。ノルウェーは法務省と警察が同じ組織(法務・警察省)と聞きますから、検事総長が地方警察の主任警部を呼び出すということもあり得るのでしょう。それにしてもヴィスティングの信任の厚さをうかがわせる出だしです。 

 折しも、閣僚を歴任してきた大物政治家が心臓発作で急逝。直後、臨終に立ち会った労働党幹事長が、機密文書の有無を確認するため故人の別荘を訪ねた際、大金のつまった段ボール箱が積まれているのを発見。見つかったのは巨額の外国紙幣であり、報告を受けた検事総長は、汚職事件につながる可能性を考慮し、極秘で捜査を始めるようヴィスティングに指示します。

 問題の段ボール箱は全部で9箱。チームに加えた鑑識員とともに調べてみると、箱の紙幣は3種類あり、それぞれの総額は536万4400ドル、284万800ポンド、312万200ユーロに上ることが判明します。ノルウェー通貨に換算すると8000万クローネ(日本円で約10億円)をゆうに超える外貨があったわけです。

 そこから捜査が始まっていきますが、事件はやがて過去に起こったある若者の失踪事件と繋がっていきます。そうして解き明かされた事件の真相は‥‥。 

 

 オビに「動機は、あまりに切なかった。」と書かせていただきました。編集担当者であるわたくしが感じた気持ちをいちばんシンプルに言うなら、「切ない」でした。「悲しい」ではなく「切ない」。皆さんにもぜひお読みいただいて、最後にどんな気持ちを抱かれるか、うかがってみたいです。

──『警部ヴィスティング 鍵穴』担当者より

警部ヴィスティング 鍵穴

『警部ヴィスティング 鍵穴』
著/ヨルン・リーエル・ホルスト
訳/中谷友紀子

『この本を盗む者は』深緑野分/著▷「2021年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR
夏川草介 特別読切「青空」