◎編集者コラム◎ 『東京輪舞』月村了衛
◎編集者コラム◎
『東京輪舞』月村了衛
2010年の小説家デビュー以来、文学賞を次々と受賞。いま最も注目を集める作家のひとりである月村了衛さんが、「自分にとって特別な作品」と語るのが『東京輪舞』です。
この作品は2017~18年にかけて「週刊ポスト」で連載されたのですが、連載前に打ち合わせを重ねて辿り着いたコンセプトは「公安から見た昭和史」。月村さんからこのコンセプトが出た瞬間の「すごい作品になるのでは!?」という胸の高鳴りは、今も鮮明に覚えています。
しかし「昭和史」と口で言うのは簡単でも、書くのは本当に大変です。『東京輪舞』の目次には「ロッキードの機影」「東芝COCOM違反」「崩壊前夜」「オウムという名の敵」「長官狙撃」「金正男の休日」と、昭和から平成にかけて日本を揺るがした大事件に関連する章タイトルがズラリ。
連載時は原稿をもらうと嬉しい一方、大量の資料と格闘しながら執筆している月村さんは一体いつ寝ているのだろう、とすごく心配になったことを思い出します。
本書の内容は、かつて田中角栄邸を警備していた警察官・砂田修作が公安に異動し、上記の大事件と関わっていく――というものです。警察官として「真っ当な正義」を貫こうとする砂田 vs. 警察という「組織の論理」。この構図は現代社会にも通じるものがあると思います。[すべてが最初の愚かしい誤りの辻褄合わせ]という言葉が出てくるのですが、私は今の政治や社会を見て、この言葉はそのまま現代日本が抱える闇に繋がっていると感じます。この作品はフィクションではありますが、決してそれだけではないと思わせるだけの強烈なリアリティがあります。是非そこを楽しんで頂けると嬉しいです。
傑作揃いの月村作品の中で、『東京輪舞』は間違いなく「大きな転換点」であり「新境地」といえる作品です。本書の解説では書評家の杉江松恋さんがそのあたりをとても詳しく、熱く書いてくださいました。また、月村さんがご自身で「特別な作品」と語る理由はこちらからインタビュー動画を見ることができます。
最後になりますが、『東京輪舞』は本当に「すごい作品」です。「公安から見た昭和史」というコンセプトを聞いた瞬間に感じた予感。文庫化に際して改めてじっくりと読み直してみて、それが間違いではなかったと確信しています。
──『東京輪舞』担当者より
『東京輪舞』
月村了衛