◉話題作、読んで観る?◉ 第40回「キネマの神様」
8月6日(金)より全国ロードショー
映画オフィシャルサイト
原田マハの同名小説を、「男はつらいよ」シリーズの山田洋次監督が映画化。ギャンブル依存症の父親に振り回される家族という設定は同じだが、熱狂的な映画マニアの父親から、かつては映画監督を志していたものの挫折した男へと、大きく脚色されている。
競馬、麻雀好きなゴウ(沢田研二)は借金を重ね、妻の淑子(宮本信子)は困り果てていた。年金が振り込まれる口座のキャッシュカードを娘の歩(寺島しのぶ)に取り上げられ、行き場のないゴウは、名画座「テアトル銀幕」へ。館主のテラシン(小林稔侍)は、撮影所時代の仲間だった。
古い映画を観ていたゴウは、撮影所で過ごした青春時代を思い出す。助監督だったゴウ(菅田将暉)は、映写技師のテラシン(野田洋次郎)やスター女優の園子(北川景子)らと夢や情熱に満ちた日々を送っていた。新しい映画づくりに燃えるゴウを、食堂の看板娘・淑子(永野芽郁)が応援していた。
ゴウが脚本を書いた『キネマの神様』が映画化されることになり、ゴウは監督デビューを果たすことに。だが、極度の緊張と古参スタッフとの軋轢から、思うように映画が撮れない。さらにはセットで足を滑らせ、大怪我を負ってしまう。
晩年のゴウには志村けんさんが配役されており、脚本の読み合わせやカメラテストを済ませていた。青年時代のパートを撮り終え、現代パートの撮影を控えた2020年3月に志村さんは新型コロナウイルスによる肺炎を患い、急逝。沢田研二さんが代役を務め、撮影が続行された。
「もしも、志村さんが元気だったら……」と思わせるシーンが、劇中にはいくつもある。コロナ禍によって、映画館をはじめとするエンタメ界が厳しい状況に追い込まれていることも描かれている。だが現実がシビアであればあるほど、映画はより美しい輝きを放つことになる。
志村さんの出演は叶わなかったが、映画マニアだった志村さんは〝キネマの神様〟となり、スタッフやキャストの背中を後押ししたのだと思う。映画製作も人生も、ままならないもの。でも、どこかで見守ってくれている人、支えてくれている人がいる。そんな身近な神様の存在に気づけた人は、幸せ者ではないだろうか。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2021年8月号掲載〉