飲みながら読みたいおつまみ小説vol.3
春が来ると、私は気分をすっきりさせたくなる。社会人なので特に進級したり、がらっと環境が変わるというわけでもないけど、靴を新調するみたいな気分で、心も新調させたくなる。そんなすっきりしたい気分にぴったりの小説とお酒を三つ、ご紹介します。ふんわりお酒に酔いながら、生き方とか働き方を見つめ直してみませんか。
『海のふた』よしもとばなな(中公文庫)
大人になって地元に戻ってきたまり。寂れた観光地になった西伊豆には、シャッターの降りた店と希望を失った町民だけが残っていた。その場所で、まりはぼんやりとした好きという気持ちだけで、かき氷屋を始める。しかし、心に傷を負った少女との出会いがまりのぼんやりとしたものは信念だったと気付かせてくれる。生きること、働くことに対して譲れないことがある人生は清々しい。かき氷みたいに細かく砕いた氷にレモンを搾った黒糖焼酎れんとと、おつまみはタイラギ貝のお刺身とどうぞ。ちゃんと自分の心に目を向けて日々を生きると、歩んだ道にはしっかりと信念の足跡が残っている。
『ティファニーで朝食を』カポーティ(新潮文庫)
ミス・ホリデー・ゴライトリー、トラヴェリング。ニューヨークに住む彼女の名刺には、名前の後ろに"旅行中"と記されていた。引っ越してきたばかりのような部屋と、名前のない飼い猫。安心できる場所を探し求めて、彼女はいつでも"旅行中"なのだ。メーカーズマークのオンザロック、おつまみはチョコレートとどうぞ。辛いも甘いもどちらもあるのが人生で、安住を求め彷徨う中に答えみたいなものがあって、失ってはまた見つけてを繰り返すのだと思う。
『図書館の神様』瀬尾まいこ(ちくま文庫)
『清』という名前の通り清く正しく真っ直ぐに生きてきた清は、部長としての正しいはずの選択で、取り返しのつかない後悔を味わうことになった。大人になるにつれて、正しいということだけでは生きられなくなる。そういうと人生は複雑になっていくように見えるけれど、正しい答えがないのが人生だから、人生そのものに向き合い続ける事こそが清く正しく真っ直ぐなのだと思う。和三盆を口に含んで凱陣で包む。また明日からの人生に向き合うために、たまには酔っ払ってふわっと過ごす夜も大切に。
(「きらら」2018年5月号掲載)