◉話題作、読んで観る?◉ 第46回「クライ・マッチョ」
1月14日(金)より全国公開中
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91歳になるクリント・イーストウッドの主演・監督作。サスペンス映画『恐怖のメロディ』で監督デビューしたイーストウッドにとって、40本目となる監督作だ。『ダーティハリー』などのアクション映画でタフガイを演じてきた彼らしい、男くさいロードムービーとなっている。
イーストウッドが演じるのは、かつてロデオ界のスターだったマイク。落馬事故に遭ってからは落ち目となり、頑固な性格のために馬の調教師の仕事も失ってしまう。
孤独な日々を過ごすマイクに、元雇い主が犯罪スレスレの仕事を依頼する。別れた妻が引き取った息子のラフォを、メキシコから連れ戻してほしいというものだった。
まだ10代のラフォは男遊びに夢中な母親を見限り、路上生活を送っていた。ラフォは「マッチョ」と名付けた闘鶏用のニワトリに愛情を注ぎ、マイクも馬にしか心を開くことができない。人間不信に陥っていた2人だが、母親の放った追手に追われながらの旅を続けるうちに打ち解けていく。
N.リチャード・ナッシュが原作小説を発表したのは75年。当時からイーストウッド主演作として検討されていたが、「マイクを演じるには若すぎる」とイーストウッドが断ったことから実現には至らなかった。40年以上の歳月を経ての映画化となった。
原作のマイクは38歳なので、物語の持つニュアンスはずいぶんと変わった。だが、15歳の若手俳優エドゥアルド・ミネットとの年の差コンビが面白い。自己中心的な人生を送ってきたマイクは、路上生活を強いられる少年のために自分の生き方も見直すことになる。
「人は自分をマッチョに見せたがる。すべての答えを知っている気になるが、老いと共に無知な自分を知る」
本作を象徴するマイクの台詞だ。原作にはないこの台詞を主人公に言わせるために、40年間寝かされた企画だったのかもしれない。
ロデオ界の内情を詳しく描いた原作とは、ラストも大きく変わった。若いラフォは自分の進むべき道を自分で考え、選ぶことになる。少年が大人の世界へ足を踏み入れる瞬間でもある。イーストウッドからの厳しくも温かいメッセージが込められた、無駄のない104分となっている。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2022年2月号掲載〉