◎編集者コラム◎ 『消える息子』安東能明
◎編集者コラム◎
『消える息子』安東能明
著者の安東能明さんといえば、警察小説の王道を歩む練達の作家です。近年は、近現代史を下敷きにした社会派小説の領域にも進まれています。そんな安東作品の愛読者からすれば、この作品のコピーである「タイムスリップミステリー」はちょっと意外かもしれません。
本作冒頭、八王子の公務員である主人公・宮津和夫は、相模湖に連れ立った息子から、驚愕の告白をされます。「ぼく、あそこで殺されたんだ」。以来、和夫も水辺で謎の男を絞め殺す悪夢にうなされるようになります。33年前に発見された変死体と息子の発言には、奇妙な符合がありました。息子は和夫が前世で殺した人間の生まれ変わりなのか……。この問いを推進力としながら、時空を超えた「謎解き」はスピードをあげ、そして深まっていきます。
この作品は今から15年前に、とある「ケータイ小説」サイトに連載されていたものをベースとして、「現在」的な視点を入れながら改稿しました。本作から、当時の安東さんの関心領域がSFや本格ミステリにあったことがうかがえます。また現場となる八王子は、安東さんが学生時代に過ごした街でした。街の空気や景色にまつわるディテールがふんだんに書き込まれています。
作品自体はすでに大半が出来上がっていたので、内容面に関して編集者の入る余地はそう多くはありません。だからこそ、こだわったのは装丁でした。
従来の読者層とは違った層にもアプローチできるよう、イラストレータの小山義人さん、デザイナーの川谷康久さんに相談しました。そうして完成したのが、この装丁です。まさに消えんとする少年。息子を肩車する父親の、なんともいえない不気味な笑顔。さらにタイトルロゴも右半分が消えかかっていて……。ドンピシャでした。
こう書くと、私が全体の設計図を指示したかのように受け取られそうですが、これらのアイデアはすべてイラストレータとデザイナーのお二人が考えてくれました(笑)。書けば書くほど、自分の仕事の痕跡が「消えて」いきそうなので、このぐらいに。編集者の実力とは関係なく、一気読み必須のミステリです。ぜひご高覧ください。
──『消える息子』担当者より
『消える息子』
安東能明