『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬/著▷「2022年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR

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〝規格外の大型新人〟誕生に立ち会う


 昨年8月。アガサ・クリスティー賞で史上初、全選考委員が満点をつけ大賞が決まった──。そのニュースが社内をかけめぐったあとに原稿を読んだ私は、すぐさま編集担当として手を挙げました。

 その日から、社内のチームで一丸となり、ゲラ作業、プルーフ作成を超特急で行い、雪下まゆさんに素晴らしいイラストをいただいて発売まで漕ぎつけた本作は、発売1カ月で直木賞候補になり、その後キノベス!で第1位、今年の本屋大賞にもノミネートされました。文字通り「規格外の大型新人の登場」で、予想をはるかに超えた反響の大きさに嬉しい悲鳴が止まりません。


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同志少女よ、敵を撃て』は、第二次世界大戦時の独ソ戦を舞台に、ソ連側の女性狙撃小隊がたどる運命を描いた作品です。原稿を初めて読んだ時、私は独ソ戦についての予備知識はほとんどないにもかかわらず、その臨場感にページをめくる手が止められずにいました。目の前に迫ってくるような戦闘描写とキャラの立った登場人物によって、重いテーマを扱いながらも非常に読み進めやすいのです(試し読みはこちら)。

 なかには、人物描写がアニメ調で、ライトノベルっぽく読めるのではないかという声もありました。しかし、逢坂さんはあえて人物をポップに描き、キャラを立たせて作中の重い雰囲気を変えていくことで、リーダビリティを生みたかったと語っています。

 実際に、刊行後に地方や都内の書店さんを訪ねた時には、多くの書店員さんが〝好きなキャラへの想い〟を熱く語ってくださったことが印象的でした。物語が本の中だけに留まることなく、読者の心の中で「育っている」のだと気づいた瞬間でした。また、オリジナルのイラストをSNSなどでアップしてくださっている方も多く、そのたびに「登場人物一人ひとりが何を志し、何を大事にしているかを考え抜いた」逢坂さんの狙いはしっかりと読者に届いているのだなと感じました。

 また、登場人物に感情移入し、史実をもっと知りたいという想いから、参考文献にもあげられている『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅/著 岩波新書)や、『戦争は女の顔をしていない』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ/著、三浦みどり/訳 岩波現代文庫)などの本を次に手に取る読者の方々が多いことも、本作の特徴です。逢坂さんが生み出したリーダビリティは、ふだん戦争文学や戦史ノンフィクションを読まない人にも届き、「過去に何が起こったのか知りたい」という気持ちを刺激してくれるはずです。

 もちろん戦争を経験したことのない私たちにとって、彼女たちに「共感」することはできないかもしれません。でも、過去を知ることでこれからを見つめ直すことができる。物語にはそういう力があるということを、この作品はきっと教えてくれると思います。

──早川書房 書籍編集部 茅野らら


2022年本屋大賞ノミネート

同志少女よ、敵を撃て

同志少女よ、敵を撃て
著/逢坂冬馬
早川書房
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