今日のメシ本 昼ごはん
全身で楽しむ韓国のパワーフード
○月×日
神保町に来て丸二年。特色のある街で仕事をするのは楽しい。「神保町で働いています」と挨拶すると「古本の街!」とすぐに分かってもらえる。日本だけでなく韓国の人にもだ。「神保町で韓国の本屋をやっています」──このワンフレーズで自分のアイデンティティを表すことができたりもする。
しかしある日、大学生を前にこのフレーズを言ったところ、口々に「神保町はカレーの街ですよ!」と。そうだった。この二年間で一生分のカレーを食べた気がする。「ボンディ」はもちろん「エチオピア」、「ばんび」、「TAKEUCHI」、「ゴーゴーカレー神保町スタジアム」……。神保町で働く友人たちからのカレー指南は後を絶たない。カレーリレーに少々胃が疲れた時に朗報が舞い込んできた。「東大門タッカンマリ」が神保町にもできたらしい! 韓国料理店の空白地帯だった神保町に、これはうれしいニュースである。昼に夜にと連日のように通い始めた。お昼は純豆腐チゲ定食、プルコギ定食、ビビンパを。夜は鶏一羽を丸ごとつかったお鍋はもちろん、特にカルサムギョプサルがお薦め。切れ目を入れて焼きやすくした分厚い肉を二、三回ひっくり返してキツネ色になったところで一枚お皿に移し、トントンと油を落として口に運ぶ。美味しい! サンチュで巻いて食べる人が多いけれど、私はお肉だけで食べる。肉の食感をそのまま楽しみたいからである。お肉を食べ終わった鉄板での焼き飯も私はパス。お肉を食べてから炭水化物を取ると太るからである。
○月×日
炭水化物抜きダイエットに励む主人公がでてくる小説があったなと、ふと『美しさが僕をさげすむ』(ウン・ヒギョン 著 呉永雅 訳/クオン刊)を思い出す。三十四歳になった主人公が二十キロ減を宣言してダイエットに励むのだが、小説には食欲を刺激する料理が次々と出てくる。クッパブ、ワカメスープ、ソルロンタン、ヘジャンクク、チキン……。読み返しながら気付いたことが一つ。韓国料理は片手で本を読みながら食べるのが難しい。熱くて辛いものが多く、全身を使って食べる料理なのである。