未来はすぐそこに
東京オリンピックが決まった時、2020年は少し先の未来の気分だった。しかし、あっという間にそれは目前に迫っていて、未来は、もうすぐそこにあると実感。今回は、近未来を舞台にした小説をご紹介。
・『キッドの運命』中島京子
『小さなお家』の中島京子さん初の近未来短編集。
数ある短編の中で、運動補助ロボットを使い自給自足する老人たちが密かに繋ぐ植物の種の話が印象的。利便性や功利主義から離れて、後世に繋いでいかなければならないものの必要性を実感。
・『息吹』テッド・チャン
『メッセージ』で話題になったテッド・チャンの近未来短編集。少し重厚な内容なので、AIや機械学習の知識もあると、より楽しめます。
カメラの映像をライフログとして所有することができる社会の中、主人公は、記録されている映像と主観としての記憶・解釈が介在する文章との間に違和感を覚える。何が「真実」と言えるのか逡巡する「偽りのない事実、偽りのない気持ち」という短編が、物語というものの真理を語っていて妙に胸に響く。
人間は物語で生きている。物語は、一人ひとりが様々な体験から、瞬間を選び取り、編集し、感情という解釈を加えて語られるもので、同じものは一つとして無い。語られる人・タイミングでも矛盾が生じる、それもまた物語の特性かもしれない。
・『侍女の物語』マーガレット・アトウッド
狂信的なキリスト教旧約聖書の解釈の下、男性優位の社会の中で子どもを産むための道具として支給された侍女が、虐げられ自由と尊厳を奪われつつも、生き別れた娘に会うため、従順を装いながら、自由を求めてもがく女性の姿に心揺さぶられます。海外ドラマにもなり話題となった作品。昨年、カナダ本国で前日譚となる物語も発表され翻訳が待ち遠しい。
近未来小説は、「パンドラの箱」のように、今そこにある問題などが浮き彫りにされ、暗い気分になりがちですが、どんな未来にするか可能性はこれから。「希望」がきちんと残されていて、オススメです。