◎編集者コラム◎ 『旅だから出逢えた言葉 Ⅲ』伊集院 静

◎編集者コラム◎

『旅だから出逢えた言葉 Ⅲ』伊集院 静


 どうやら、このシリーズを編集している時は、不測の事態が起こるようです。

 思い起こせば、1年半前、『旅だから出逢えた言葉Ⅱ』を編集していた時はまさにコロナ禍まっただなかで、タレントで作家の加藤シゲアキさんからいただいた解説文から、

「(前略)コロナ禍で旅にいくこともままなりません。伊集院さんはどうお考えですか」しかし、よくよく考えてみれば、その答えも本書にあるように思える。本を読めばいいのだ。

 
 という素晴らしい一文をオビに使わせていただきました。

 そんな中、校了直後に自らもコロナ陽性となってしまい、まるで罪人かのような隔離生活を余儀なくされました。隔離後も、どうやらブレインフォグなるものになってしまったらしく、2ヶ月ちかく、頭と身体が空中浮遊しているような不思議な感覚に見舞われてしました。その妙な感覚からもやっと抜け出し、世間も徐々に和らぎ、外出制限も解かれ、そろそろ旅でも行こうか、という空気になりつつある中で、シリーズ第三弾の編集がスタートいたしました。

 本作品はダイナースクラブ会員誌「シグネチャー」に連載されていた紀行文「旅先で心に残った言葉」「旅と言葉」から41話セレクトしてまとめたものです。先生が大病から復帰された後に書かれた奇跡の2話も含まれます。

 そしてこの文庫と同時期に刊行された単行本『旅行鞄のガラクタ』は全日空グループ機内誌「翼の王国」で連載されていた、旅先から持ち帰ってきた土産品について綴られた紀行文集で、同時進行しておりました。

 そんな中、突然サザンオールスターズの桑田佳祐さんがベストアルバム『いつも何処かで』で最新曲として「なぎさホテル」という曲を発表するという超ビッグニュースが飛び込んできました。「なぎさホテル」は、平成元年まで逗子に実在したホテルで、若き時代に挫折を抱えた先生が7年余り過ごし、そこで出逢った人々に暖かく迎え入れられ、作家として歩みはじめるまでを綴った作品『なぎさホテル』の舞台で、2011年に単行本、2016年に文庫本として編集刊行させていただきました。

 いま再びこのようなかたちで脚光を浴びることになるとは、まさに不測の事態。大変有り難いことに文庫、単行本ともに緊急増刷が決定し、改装作業に追われることとなりました。

 旅とホテル。コロナによって、失われてかけていた夢の世界へ再びいざなわれる日が訪れることを祈りながら。

──『旅だから出逢えた言葉 Ⅲ』担当者より

旅だから出逢えた言葉 Ⅲ

『旅だから出逢えた言葉 Ⅲ』
伊集院 静

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