◎編集者コラム◎ 『旅だから出逢えた言葉 Ⅱ』伊集院 静

◎編集者コラム◎

『旅だから出逢えた言葉 Ⅱ』伊集院 静


〝「コロナ禍で旅にいくこともままなりません。伊集院さんはどうお考えですか」しかし、よくよく考えてみれば、その答えも本書にあるように思える。本を読めばいいのだ。〟

 これはタレントで先日吉川英治文学新人賞を受賞された作家の加藤シゲアキさんが執筆してくださった本書の解説「二○一三年九月一日二十時四十一分――三十五までにたくさん経験し、見聞を広げ、体で文章をかけ」からの抜粋です。
解説のタイトルは加藤シゲアキさんが26歳の時、パーティで伊集院静先生と初めてお会いになった時に先生から「三十五歳までに旅をしなさい」とアドバイスを受けたことを書き残していたメモだということです。

 本書は世界中を旅する伊集院先生がダイナースクラブの会員誌『シグネチャー』に連載している人気エッセイをまとめた「旅だから出逢えた言葉」シリーズの第2弾。南フランス・アルルでのゴッホ、伊勢での西行法師など、旅先で出逢い、心に響いた著名人の文言や、若き日に滞在していた逗子なぎさホテルの支配人、人生の師と仰ぐ長友啓典氏といった方々が残してくれたさりげない「ひと言」など、心に沁みる「言葉」が満載です。

 私事で恐縮ですか、加藤シゲアキさんから解説の最後の赤字をいただいたまさにその日、異常な倦怠感と微熱と息苦しさを感じ、翌日 PCR 検査を受けたところ、コロナ陽性と判明し、ホテル療養まで自宅待機となりました。深夜に39度近くまで熱が上がり、「急変」するのではと不安にかられる中、寝床から、ふと見上げると、かつて先生からいただいた「引くな、押せ」という色紙の「言葉」が目に入り、朦朧とする意識の中、気合いを入れ直すことができました。
 追い込まれた時に、ふと魔法を放つ「言葉」、奇しくもその「言葉」のチカラを改めて実感しながら、校了させていただいた思い出深い一冊となりました。

 ちなみに療養中のホテルの入り口でロボット、ペッパー君が「みなさん応援してます! いっぱい食べて、がんばって下さいね!」と毎日「言葉」をかけてくれるのですが(ペッパー君には申し訳ないのですが……)、まったく心には響きませんでした……。その機械的な音声は、近い将来待ち受けている血の通わない無機質で非接触な世界の到来を垣間見せてくれて、昭和の下町生まれには、なんとも言えない侘しさがこみ上げてきました。

──『旅だから出逢えた言葉 Ⅱ』担当者より

旅だから出逢えた言葉 2

『旅だから出逢えた言葉 Ⅱ』
伊集院 静

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