椹野道流の英国つれづれ 第3回
◆イギリスで、3組めの祖父母に出会う話 ♯3
あまりにも呆然としている私が可哀想になったのかもしれません。
あるいは、自分の店の中で仁王立ちになったまま動かない東洋人の女の子を、いささか不気味に思ったのかもしれません。
お花屋さんの店主は、「あんた、何色の花が好きなの?」と助け船を出してくれました。
「ええと……黄色、オレンジ色、かな」
幼い頃からキンモクセイの花が大好きだったことを咄嗟に思い出して答えると、「ふーん」と応じて、店主は立ち上がりました。
煙草をくわえ、スパスパと煙を吐き出しながら、しばらく腕組みして店内の花を眺めていた彼女がスッと1本抜き取ったのは、オンシジュームでした。
黄色い、フリルのような小さな花をたくさんつけるランです。
「これ好き?」
「好きです!」
私が即答すると、ずっと渋い顔つきだった彼女は、ニッと笑いました。
煙草をくわえているので、唇を横に引き延ばしただけなのに、急に何とも言えない人なつっこさが出て、私も何だかほっとして少しだけ笑顔になれました。
「好きな花、あるんじゃん。よかった」
そう言うと、彼女はオンシジュームを私に差し出しました。
「これに合わせたい花、どれ? 取ってごらん」
「お花、触っていいんですか?」
「触らないと取れないでしょうよ」
どうして、そんな当たり前のことを訊くんだろうこの子は……という口調なので、「日本でそんなことしたら、怒られそうなんですよ~」と心の中で弁解しつつ、私は改めて店内の花を見回しました。
兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。