椹野道流の英国つれづれ 第3回
さあ、あとはバスに乗るだけ!
ところが、街の中心部であるロータリーに行ってみると、バス乗り場だらけなのです。
えええ、どのバスに乗ればいいの?
必死で路線図を見て、行き先の住所を探し、どうにかそれとおぼしき方向へ向かう路線を見つけることができました。
目当てのバス停に立っている若い女性に、「ここに来るバス、このあたりに行きますか?」と住所を見せて訊ねてみると、彼女は大きなピアスがはまった鼻筋に皺を寄せ、「行くんじゃね?」とつっけんどん、かつ曖昧な一言。
うあー、訊く相手を間違えた。でも、バス待ちの客は、私の他に彼女だけ。まずは信じるしかありません。
やがてバスが到着し、扉が開きました。
運転手は、大きなサングラスをかけた、強面のおじ……お兄さん。
私たちを乗せるとすぐ走り出してしまったので、私は慌てて席に着きました。
本当に、これは、目指す場所に連れていってくれるバスなのか。
不安が胸に迫ります。
気分はまさに「はじめてのおつかい」状態です。
私がかろうじて知っているブライトンの中心街をあっという間に通り抜け、急な坂道を上り、見たこともない住宅街を走り続けるバスの中で、私はオロオロと窓の外の景色を眺めるばかりでした……。
兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。