短篇集『わたしのペンは鳥の翼』 アフガニスタンの女性作家から日本の読者へメッセージが到着

短篇集『わたしのペンは鳥の翼』 アフガニスタンの女性作家から日本の読者へメッセージが到着

 アフガニスタンの女性作家たち18名がペンを執り描いた23の短篇集『わたしのペンは鳥の翼』(古屋美登里訳)。原書「MY PEN IS THE WING OF A BIRD」が2022年2月に英国で刊行されるという情報を担当編集者の私が聞いたのは、その前年の秋、タリバンによる首都カブール制圧が報じられたほんの少し後でした。そのあらましを聞いた途端、この本はどうしても日本で出版したい、いや絶対に出版しよう、と心に決めました。

 長年にわたる紛争の影響と深刻な貧困を抱え、ジェンダーギャップ指数ランキングは世界最下位という国、アフガニスタン。タリバン復権以降は、女性たちへの抑圧はさらに苛烈になっています。男性の同伴無しでの遠出禁止、外出時には頭から全身を覆うブルカの着用を義務づけられ、女性の大学教育は無期限停止、女子は小学校までしか通えないなど、日本で暮らす私たちからはとても信じられない事態が続いています。

 もとより一夫多妻制と根強い家父長制が残る国でもあり、少女たちは親同士の取り決めのもと、幼いうちによく知らない相手と(時には親子以上に年の離れた相手と)結婚させられ、男の子を産むことを強いられ、家庭内では奴隷のように主人に仕えさせられ、暴力を受けることも珍しくありません。外に出れば、ごく日常と化している爆破テロが待ち受け、その日一日を生きて終えることすら難しい。それがこの国の現実です。

MY PEN IS THE WING OF A BIRD」は、紛争地域の作家をサポートする英国のプロジェクト「UNTOLD」がアフガニスタン全土から「小説を書きたい女性」を募り、ダリー語とパシュトー語で書かれた作品を英訳してまとめ上げた本です。女性が本を書いて世に出すことなど許されない状況下、作者たちはプロフィールを明かすことが出来ず、現在は国外に逃れている作者も少なくありません。そうして身の危険に晒されても「書きたい」「表現したい」という彼女たちの思いは海を越え、日本での出版後は多くの女性作家や書店員、読者の方々から「わたしも彼女たちに繫がりたい」「この本を読むことで彼女たちと連帯したい」と、熱い反響をたくさん頂いています。

 この反響を受けて2023年2月、二人の著者から日本の読者に向けたメッセージが、編集部にメールで届きました。
 英日のエージェントを通してメッセージを送ってくださったマースーマ・コウサリーさんは、貧しい代書屋の男のある日の光景を静かな筆致で紡いだ「犬は悪くない」、爆死した女性の遺体の視点でテロを語る「防壁の痕跡」という二作を、もう一人のザイナブ・アフラーキーさんは実際に起きた女子校の爆破テロ事件に想を得て、二人の少女の友情と勇気を描いた「花」という作品を本書に寄せています。
 

『わたしのペンは鳥の翼』
アフガニスタンの女性作家からのメッセージ
(古屋美登里 訳)


 わたしのペンは傷を負った翼で、檻のなかにいるわたしのために空を飛ぶ夢を描く。自由と公正の夢を。わたしのペンはわたしの叫び、喉元で押し潰された怒り、そしてジェンダー故に耐え忍ぶ苦しみなのだ。

──マースーマ・コウサリー

 
My pen is my wounded wings that draw the dream of flying for me in a cage. The dream of freedom and justice. My pen is my cry, the anger suffocated in my throat and the pain I endure because of my gender.

──Masoma Kawsary

 

 わたしが「花」を書いたときにはすでに、タリバンはカブールの門にたどり着いていました。
 失意のなかで絶望と恐怖を味わいながらも、わたしが読者に向けて遺言のように言葉を書き記したのは、ブルカに閉じ込められて自由を奪われた後でも、世の中の人々がタリバンの犯した罪を忘れないようにするためでした。「花」を書くことでわたしは、この思いの幾ばくかとカブールで起きた悲惨な出来事の一部を、世界の人々と、とりわけ思いやり深い日本の方々と分かち合いました。『わたしのペンは鳥の翼』をお読みになれば、アフガニスタンの人々の暮らしが、特に少女や女性たちの生活の様子がわかっていただけるものと思います。みなさんが支援してくださったことに、そしてアフガニスタンの女性作家たちの物語の素晴らしい読み手になってくださったことに感謝いたします。

──ザイナブ・アフラーキー

 
I wrote “Blossom” while the Taliban had reached the gates of Kabul.
Desperate and scared, with a broken heart, I wrote the words on the page like a testament to the readers so that after being imprisoned under the burqa and the death of my freedom, the world would not forget the crimes of the Taliban. By writing this story, I have shared a part of my soul and a part of the bitter events of Kabul with the people of the world, especially the caring people of Japan. Surely, by reading the book “My Pen Is the wing of a bird ”, you will get a clearer idea of the life of the people, especially the girls and women of Afghanistan. Thank you for your support and being great readers of stories by Afghan women writers.

──Zainab Akhlaqi
 


 
 本書のあとがきには、一人の著者のこんな言葉も紹介されています。

「わたしたちにできることは、精神的な支援をし合うことだけです。作品を読んでもらうことは、そうした精神的支援なのです。戦争であってもわたしたちの創作する力を奪い取ることはできやしません」

 著者たちは現在も励まし合いながら、物語を書き続けているといいます。ぜひ、彼女たちの命がけのメッセージに耳を傾け、過酷な日々のなかで紡ぎ出した物語を受け止めて頂ければ幸いです。

わたしのペンは鳥の翼

『わたしのペンは鳥の翼』
著/アフガニスタンの女性作家たち
訳/古屋美登里

 

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