週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.75 広島蔦屋書店 江藤宏樹さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 広島 蔦屋書店 江藤宏樹さん

わたしのペンは鳥の翼

『わたしのペンは鳥の翼』
アフガニスタンの女性作家たち
訳/古屋美登里
小学館

 本を読む意味ってなんだろうと考えることがあります。

 娯楽のため、必要な知識を得るため、仕事に役立てるため、などなどいろいろありますが、私が特に大事だと思っているのは「本を読むことで、私ではない他の人のことを知り、理解しようとすること」ではないかと思っています。

 私は、私以外の他の人が何を考えているのかわかりません。その人の行動が何に基づくものなのかもわかりません。そもそも私と同じ価値観を持っているのかどうかもわかりません。

 だから、他人のことなどどうでもいい、わかりっこない、と諦めてしまう、ではいけないのではないか、じゃあどうするんだ。

 という時に、小説を読むのは一番いい方法なのではないかと思っています。

 自分とは全く違う考え方を持った登場人物、遠く離れた国に住む作者の書く物語、それに触れることで私は私以外の他の人の考えを自分の中に取り込み、自分の事として考えることができるのです。

 この本はアフガニスタンの女性作家18名による短編集です。短編なので非常に読みやすいのですが、だからといってするすると読み進められるかというとそんなことはありません。ひとつの短編を読むたびに私は衝撃を受け、自らの無知に唖然とし、そして彼女らの置かれた状況を想像しようと試み続けました。

 そこでは、人の命があまりにも簡単に失われます。自分の生まれた国に留まることが最大のリスクになります。日常生活の中に爆撃があります。目の前にミサイルが落ちて家族が死にます。

 さらに彼女らは、タリバン政権下では抑圧され差別される対象となる女性なのです。彼女らは自分の国では声をあげること、状況を変えることなどは、ほぼ不可能です。この短編集に作品を寄せた作者の紹介はこの本の中にもありません。そんなことをしたら彼女らの身に危険が及ぶおそれがあるからです。実際、著者のうちの数人は身の安全を守るために国外に避難をしています。

 そんな状況の中、人はなぜ物語を紡ぐのだろう。おそらくそれは彼女らにとっての希望であり、戦いの手段のひとつなのだと感じました。であれば、私たちはこの物語を受け取らなくてはならない。この物語を読んで、知り、理解しようとしなければならないし、できることならこのバトンを次の誰かに渡したい。そうやってこの物語が世界に広がっていくことで、世界が少しでもいい方向に変わると信じたい。とにかく私はこの本をあなたにも読んで欲しいと願うのです。

 

あわせて読みたい本

『どうして男はそうなんだろうか会議』書影

『どうして男はそうなんだろうか会議』
編/澁谷知美、清田隆之
筑摩書房

 この日本で、特に意識せず考えもなく生きている男性は、自分がどんな立場にいるのかわかっていないかも。どれだけ日本において男性が下駄を履かされているか、どれだけ有利な立場で生きているか気がつかないと思います。私自身も時々自分の立っている場所を確認するためにこのような本を読むことにしています。アフガニスタンの女性たちとは次元の違う話かもしれませんが、ぐっと視線を手前に戻して男について考えてみましょう。

 

あわせて読みたい本

『それでも彼女は歩きつづける』書影

『それでも彼女は歩きつづける』
大島真寿美
小学館文庫

 自分の立っている場所を確認するために、自らを客観的に見るということは大事なことです。では人は他者をどう見ているのか。とある女性映画監督について彼女と関係を持つ女性6人が、彼女について語る連作短編集です。6人の女性が語ることで、彼女の姿がはっきりと見えてくるかと思いきや、その姿は掴めそうで掴めません。人が語る他者の事とは、結局そういうものなのかもしれません。
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