◎編集者コラム◎ 『終身刑の女』著/レイチェル・クシュナー 訳/池田真紀子

◎編集者コラム◎

『終身刑の女』著/レイチェル・クシュナー 訳/池田真紀子


終身刑の女

 地元の本屋でこの本を目にして、自分で編集しておきながら「ギョッ」としてしまいました。
 まず『終身刑の女』というタイトルから尋常ではない不穏さが漂っているし、なにより装丁に使われた写真が(自分で編集しておいて)かなり不気味です。主人公の絶望と叫びに呑み込まれてしまいそうな……。

 そんなカバーで日本の書店にも登場した今作ですが、フランス最高の文学賞であるメディシス賞(外国小説部門)受賞作で、あのブッカー賞の最終候補作にもなった、欧米中から注目が集まる話題作。しかも池田真紀子さんの訳!ということになれば、翻訳小説好きの方はたまらず手に取りたくなるのではないでしょうか。

 主人公は、サンフランシスコ出身の女性、ロミー・ホール。
 彼女は「二つの終身刑プラス六年の刑」で、カリフォルニア州スタンヴィル女性刑務所に収監されています。たったの29歳で。しかも幼い子供がいるというのに。
 唯一頼りにできる母親に子供の世話を頼んでいるのですが、あるときその母親が亡くなったという報せが届きます……。

 刑務所には、ロミー以外にも希望のない余生を送る女性が何人も収監されています。彼女たちの背後にある、あまりに暗くて悲しい過去を読むと、思わず呆然としてしまいます。ロミー・ホールはサンフランシスコでどんな幼少期を過ごし、どういう経緯で犯罪に手を染めてしまったのか。どんな出会いが、彼女の人生を運命づけたのか。ゲラをめくる手が止まりませんでした。

 ちなみにこの本を編集しているときが、ちょうどアメリカ合衆国大統領選挙が行われていた頃で、テレビをつければいつもアメリカ各地の景色や人々が映っている時期でした。サンフランシスコやカリフォルニア州が取り上げられると、これまで気にならなかったことも気になり始め、心がざわつきました。アメリカの見方が変わった、と言っても過言ではないかもしれません……。

 アメリカ発の傑作プリズン・ノヴェル。これを機に、ぜひお楽しみください。

──『終身刑の女』担当者より
  

終身刑の女

『終身刑の女』
著/レイチェル・クシュナー
訳/池田真紀子

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