◎編集者コラム◎ 『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う 』鈴木智彦

◎編集者コラム◎

『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』鈴木智彦


 本書の単行本が発売されたのは2018年10月11日、豊洲市場の開場当日でした。暴力団がシノギ(資金源獲得の手段)とする密漁ビジネスの実態は、本書をきっかけに社会に認知され、取り締まりも強化されました。

 著者の次作であり、本書とは全く異なるテーマ、作風が話題を呼んだ『ヤクザときどきピアノ』(CCCメディアハウス刊)の冒頭には、本書の校了後、〝ライターズ・ハイ〟になった著者が衝動的にピアノを習い始める様子が描かれます。問題は、そこでの担当編集である私と著者とのやり取りです。

〈このとき締め切りを抜けたばかりの『サカナとヤクザ』の取材はずるずると五年間続いていた。取材費だけでもウン百万円は突っ込んでいた。にもかかわらず取材途中だった。知れば知るほど調べたくなる。

「どうですか? そろそろデッドです」

「ごめん、あと半年、いや一年はかかる」

「何年待ってると思ってるんですか!! 密漁博士になるつもりですか! 今回は言わせてもらう! 今どき、あんたのように締め切りを破って居直るライターなんてどこにもいないんだ!!」

 担当が〝切れた編集〟の標本にしたいほどきれいにぶち切れ、築地市場の移転日をガチの最終リミットに設定しなければ、寿命が尽きるまで調べていたかもしれない。〉

(『ヤクザときどきピアノ』より) 

 
 読んだ私は思わず著者に抗議しました。「そのまんま再現する必要はないでしょう」と。確かに、これほど激しいやり取りを経て、本書は刊行されました。すべては豊洲市場開場に合わせるためです。

 それから3年、著者は今回、改めて「サカナとヤクザ」の歴史と現状を取材し、2つの新章「密漁社会のマラドーナは生きていた」「〝魚河岸の守護神〟佃政の数奇な人生」を書き下ろしました。著者は自身のツイッターにこう書き込んでいます。

〈文庫本用新章を含むゲラはとっくに出てて、突然「佃政を追加よろしく」と、昨日の昼に大量の原稿を送りつけたら、「ふざけないで下さい!ああ、クソなにこれめちゃ面白いグギギギ」って担当が死にかけの蝉になってたw〉

 懐かしい感覚を味わえたことは、担当として最大の喜びです。

築地でターレーに乗る著者

──『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』担当者より

サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う

『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う
鈴木智彦

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