◎編集者コラム◎ 『カルピスをつくった男 三島海雲』山川 徹

◎編集者コラム◎

『カルピスをつくった男 三島海雲』山川 徹


モンゴル高原
三島海雲も百年前に訪れたモンゴル高原(著者撮影)

 著者の山川徹さんとは、それなりに長い付き合いです。もう十年以上前、私が週刊誌に在籍していたころから、ライターとして仕事をお願いしていました。「カルピスをつくった男 三島海雲」というテーマは、当時からお酒の席で耳にしていました。

 三島は、今から百年前のモンゴルを駆け抜け、カルピスのもととなる遊牧民の伝統食と出会います。そこでのアイデアをもとに、日本初の乳酸菌飲料を誕生させるわけですから、規格外の人物といっていいでしょう。たんに発明するだけでなく、「初恋の味」というキャッチフレーズまでつけて売り出すセンスもあります。そしてほとんど自伝や評伝の類は出ていない。駆け出しのライターとも言えた山川さんにとっては、三島海雲を書き上げることは、大きなチャンスでした。
 しかし、私が代弁するのもおこがましいですが、現代に生きる私たちが、三島の輪郭をたしかなものにしていくのは、困難な行程でした。三島は四十年以上前に没しており、関係者は少ない。カルピス社もすでに別グループの子会社となっている。山川さんはモンゴルにわたって、遊牧民と交わり、わずかな足跡を辿っていきました。

 数年かけて苦労して書き上げた原稿を、とある新人賞に応募するのですが、最終選考でいくつかの綻びを指摘され、惜しくも落選してしまう。それを伝えたときの山川さんは、いつもと変わらず明るい笑顔を浮かべていましたが、やはり相当こたえていたと思います。高田馬場かどこかの場末の居酒屋で、遅くまで痛飲したことを覚えています。
 悔しさをバネに、山川さんは一から取材をし直し、堂々と単行本を上梓しました。骨太なノンフィクションですが、重版もし、さらには書評も多くでました。その後、山川さんは、ご自身も学生時代に競技をしていたラグビーをテーマにして『国境を越えたスクラム』を上梓し、見事、ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞します。今では、多数のテーマを抱える気鋭のノンフィクションライターとなりました。

 初恋の味はどこからきたのか。本書のキャッチコピーです。この帯文を考えていたとき、甘酸っぱいカルピスの味でなく、場末の居酒屋のウーロンハイの苦味を思い出しました。

──『カルピスをつくった男 三島海雲』担当者より

カルピスをつくった男 三島海雲

『カルピスをつくった男 三島海雲』
山川 徹

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