◎編集者コラム◎ 『海とジイ』藤岡陽子

◎編集者コラム◎

『海とジイ』藤岡陽子


海とジイ

 藤岡陽子さんのデビュー当時の作品『海路』という作品がとても好きでした。
 そのお話を藤岡さんとしているときに伺うと、その後何年も経つけれど文庫化の予定がない、とのこと。それとは別に、藤岡さんから「是非読んでほしい原稿です」と渡していただいた、文芸誌に掲載された素晴らしい短編。共通するのは、お爺さんが主人公であることと、舞台が海であること。
 その共通点から、この1冊を編み出すことを考えました。
 当初の小説では沖縄だった舞台を瀬戸内の島々に。
 そして、その上で最後にゆるくリンクするように依頼をして、3編目は書き下ろしでご執筆いただきました。
 海は様々な表情を持つけれど、その中でも優しい表情を見せる夕凪や、最後の陽光に照らされる夕映えの海。そして、守ってくれるような大きさ。それは、人生の最期を見据えた老人の強さや大きさ、優しさに通じるものがあるな、とイメージして作った1冊になります。
 藤岡陽子さんの穏やかで温かい筆致が描き出す温もり溢れる小説世界を、是非多くの方々に愉しんでいただきたいです。

──『海とジイ』担当者より

海とジイ

『海とジイ』
藤岡陽子

クリストファー・イシャウッド 著、横山貞子 訳『キャスリーンとフランク 父と母の話』/ヴィクトリア朝末期から第一次世界大戦後までの変わりゆく英国社会を描いた大作
【著者インタビュー】芦沢央『夜の道標』/人間の尊厳や誇りをめぐる新たな視座へと読者を誘う、慟哭のミステリー