◎編集者コラム◎ 『軋み』エヴァ・ビョルク・アイイスドッティル 訳/吉田 薫

◎編集者コラム◎

『軋み』エヴァ・ビョルク・アイイスドッティル 訳/吉田 薫


『軋み』編集者コラム
事件現場である灯台ももちろん実在。現地エージェントから「We love Shogakukan’s cover」とお喜びの声をいただいた装丁も注目です。

 アイスランドといえば、何を思い浮かべますか?

 北極圏に迫る氷の国、そして火山の国であり、オーロラも見られるというさながら地球の原始の姿を感じさせる地。そして北欧らしく、アートや音楽などの文化も豊か。あの歌姫、ビョークを思い出す人も多いはず。

 そう、そのビョーク(Bjorg)と同じ名を持つ作家が、日本初上陸です!

 エヴァ・ビョルク・アイイスドッティル著『軋み』(吉田薫訳)をご紹介。

 舞台は、首都レイキャヴィークの北、湾を挟んだ半島の先の町、アークラネス。9キロ平方メートル、人口7500人程度(2019年現在)という小さな町です。本作を読むにあたり、ひとまず「アークラネス」をウィキペディアで検索したところ……なんとその説明文はわずか5行! 人口と設立の年、そしてレイキャヴィークへつながる海底トンネルについての記述があるのみ。

 ドラクエの旅の途中に立ち寄る町でも、もうちょっと設定があるのでは……という情報の少なさ。いやしかし、それはすなわち読み手の想像の膨らませ甲斐があるというもの。

 主人公のエルマは恋人との別れを機にレイキャヴィークから生まれ故郷のアークラネスに戻り、地元警察に職を得ます。ほどなく、町はずれの灯台付近で女性の不審死体が発見されます。調査の結果、クヴァールフィヨルズルに住むエリーサベトというパイロットだと判明。夫は「彼女はアークラネスに行くのを嫌がっていた、憎んでいたといってもいい」と証言します。なぜ彼女はアークラネスをそれほど疎んでいたのか、なぜその地で死ななければならなかったのか。小さな港町に澱のように堆積した哀しみが、エルマの捜査で次第に明らかになってゆく……。

 本作の読みどころは彼女は「なぜ」殺されたのか、というホワイダニットのところにあります。エリーサベトの現在と過去が往還するように描かれるなかで、エルマ自身も恋人との別れと新たな出会いのはざまで揺れるさまが印象的。ラストには「えっっっ……(絶句)」となるどんでん返しも用意されていますよ。

 余談ですが、アイスランド警察はインスタグラムを開設(@logreglan)しています。キリっとした制服に身を包みつつ、穏やかな笑みを浮かべる警察官たちが多数登場。中には食事シーンや動物と戯れる様子もあったりして、彼ら彼女らの自然な姿が見られます。本書のおともに、ぜひ覗いてみては。

──『軋み』担当者より

軋み

『軋み』
エヴァ・ビョルク・アイイスドッティル
訳/吉田 薫

ゲスト/植本一子さん◇書店員が気になった本!の著者と本のテーマについて語りまくって日々のモヤモヤを解きほぐしながらこれからの生き方と社会について考える対談◇第19回
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第221回