【栃木県民マンガ】負けるな!ギョーザランド!! 第5回 海なし県で極上のお刺身三昧!? まんが/いちごとまるがおさん 監修/篠﨑茂雄

栃木と茨城の県境にたつ鷲子山上神社にお参りしたチャオズとイチマル。そこに茨城神・水戸納豆が現れて、いつものようにチャオズをからかう。怒ったチャオズは水戸納豆とのマス釣り対決に臨むのだが、じつはチャオズはまったくの素人で……。おいおい、また神番付が下がっちゃうの~!?

 

栃木で鮭が獲れるって知ってっけ?
養殖じゃないぞ。立派な天然物だぞ!
また、中禅寺湖にはブラウントラウト、ヒメマス、
ホンマス、ニジマスなどのトラウト類がわんさかいて
幕末の豪商トーマス・グラバーは別荘まで建てて釣りにいそしんでいたし、
あの開高健も足繁く通っていたとか。
その栃木県が生み出した新しい魚、ヤシオマスと銀桜サーモンは
釣って楽しく食べて美味しい
ぞ!
とくにプレミアムヤシオマスの刺し身は、ほんとに絶品。
もう、海がなくても悔しくない!……かも。

 

マンガ中の記号(※1)などは、マンガのあとに出てくる用語解説「餃子国の歩き方」の番号と対応しています。
 
 











 
 

 

(※1)那珂川


 那須岳山麓を源として、栃木県内を斜行し、茨城を通って太平洋にそそぐ川。ガイドブックなどでは「清流」と紹介されており、高知県の四万十川になぞらえられることも少なくない。
 いやいや、それは言い過ぎでしょ、と言われそうだが、とくに栃木県側(つまり、上・中流)は、まさに清流。ウソだと思ったら、那珂川の支流・木の俣川沿いにある「木の俣渓谷と木の俣園地」(那須塩原市)を訪ねてみてほしい。木々の間を縫って透明な水が流れており、四季折々の景色が楽しめるぞ。県外はもちろん、県内でも知んねぇ人が少なくねぇのだけれど、行ったらそのすばらしい光景に驚くはず。
 で、この那珂川はアユ釣りのメッカとして有名なのだが、なんと鮭が遡上してくる。江戸時代、那珂川の鮭は朝廷や幕府への献上品として珍重されていたが、現在では栃木県側、茨城県側で稚魚の放流が行われていることもあって、鮭の遡上は途絶えていない。
「那珂川では那須塩原市(旧黒磯市)付近、鬼怒川では塩谷町付近まで上ってきます。年による変動はありますが、毎年多くのサケが遡上し、10月下旬~12月上旬にかけて遡上や産卵の様子を観察することができます」(なかがわ遊水園)
 ちなみに県内では、那珂川以外に鬼怒川、思川、渡良瀬川、五行川(いずれも利根川の支流)、箒川(那珂川の支流)などで鮭の遡上を見ることができる。秋、栃木県に来ることがあったら、川面をチェックしてみんべぇ!

(※2)鷲子山上神社


 1200年以上の歴史を誇る神社。修験道で有名な八溝山地の山深い地にあり、常陸(茨城)の人にも、下野(栃木)の人にも信仰されていたとか。
 面白いのは、本殿の真ん中に県境があること。県境にある神社はたまにあるけど、ひとつの建物が、ふたつの県にまたがっているのは珍しい。社務所は栃木県側と茨城県側双方にあり、宮司も2人いるが、常駐しているのは栃木側の人。茨城側の宮司は、祭礼など特別のときに来るそうな。ちなみに水道は栃木側のものを使っているけど、電気はそれぞれに契約しているんだって。
 で、茨城側ではその昔、オカルトチックな民間信仰があり、丑の刻参りも行われていた。漫画のキャラクター・水戸納豆がしつこくチャオズをいじめるのも、そういう粘着質なDNAのなせる業か!?

(※3)なかがわ水遊園


「水族館」と聞いて普通の人がイメージするのは、イルカやサメなど海の生きものが楽しめる施設だろう。でも、栃木、群馬、埼玉という海なし県の水族館は、淡水魚中心の展示だ。
 群馬県唯一の水族館は、道の駅 道の駅みなかみ水紀行館に併設されている「水産学習館」で、トンネル型水槽はあるもののそのほかの展示はあまり多くない。埼玉県唯一の水族館、羽生水郷公園の一角にある「さいたま水族館」は、1983年開館で施設自体が古いのが玉に瑕。
 その点、2001年に開館した「なかがわ水遊園」は、ハード・ソフトともに充実。アユやサケなど那珂川に棲む魚はもちろん、トンネル型水槽ではピラルクーなどアマゾンの魚などが堪能できる。淡水魚水族館では、ナンバーワンを名乗ってもいいだろう。
 また、すぐ隣の栃木県水産試験場で生みだされたブランド魚・ヤシオマスと銀桜サーモンの勇姿も拝めるぞ。
 東京や千葉、神奈川のみなさん。地元の有名な水族館に飽きたら、なかがわ水遊園を思い出してくれ!

(※4)ヤシオマス


 漫画にもあるように、ヤシオマスも銀桜サーモンもサケ科の魚。ヤシオマスがニジマス、銀桜サーモンがサクラマスをベースとした3倍体(通常は2本の性染色体を3本持つもの)だ。通常、メスは卵を産むと身が細り、寿命が短くなってしまうが、3倍体には生殖能力がないので、食味が落ちないうえに長生きで大型化する。もっぱら管理釣り場用に養殖されており、その強烈な引きに魅せられたマニアも多い。
 ヤシオマスは昭和60(1985)年代に開発されたものだが、その後も品種改良を重ねて、2014年には味と食感が劇的に向上したプレミアムヤシオマスが完成! 味の決め手といわれるオレイン酸が、通常のサケ類の2倍以上含まれているとか。
 こちらは管理釣り場用ではなく、高級食材としてレストランやホテル、料亭などにおろされている。基準を満たした養魚場からのみ出荷されるので、栃木に行けばどこでも食べることができるわけじゃないぞ。
 せっかく栃木に行くのなら、プレミアムヤシオマス振興協議会のwebサイト(http://www.pyashio.com/shops/index.html)をチェックして、幻の魚に遭遇しよう!

(※5)金精川のます池


 那珂川の支流のそのまた支流、金精川沿いにあるマス養殖を兼ねた釣り堀、レストラン。上流に民家のない清流で育ったマスを釣り上げ、塩焼き、唐揚げ、刺身といったお好みの方法で料理してもらえる。
「えっ、マスの刺身!?」と驚く人もいるかもしれないが、卵から生魚になるまで一貫生産をしており、寄生虫の心配は無用だそうだ。
 で、ここはプレミアムヤシオマスを提供している限られたお店のひとつ。その刺身はきれいな赤身。味と食感は、サーモンの中トロといったところ。脂が適度にのっていて、お世辞ではなく美味。某グルメ番組の司会者なら、大声で「うまい!」と言うだろう。
 ちなみに、身が白い印象のあるニジマスも、この店の魚はヤシオマスのように赤みが差しており、なんだか高級感がある。これを特製のタレでつけ込み、冬の冷たい空気で乾燥させた鮭とばならぬ「清流とば」もなかなかイケるぞ。

「負けるな!ギョーザランド!!」は、毎月10日と25日に公開予定です。


 

■プロフィール

まんが:いちごとまるがおさん

田んぼに囲まれた田舎で創作活動を続ける、ひきこもりのおたく姉妹ユニット。栃木県佐野市在住。
姉の小菅慶子(代表)は1985年生まれ。グラフィックデザインから漫画、動画編集、3DCGまでやりたいことはなんでもやる。通信制高校の講師も。趣味はゲーム、ホラー映画、都市伝説。

 

監修:篠﨑茂雄

1965年、栃木県宇都宮市生まれ。大学・大学院で社会科教育学(地理学)を専攻したのち、県立高校の社会科教員を経て、現在は博物館に勤務。学芸員として、栃木県の伝統工芸、伝統芸能、生産生業、衣食住等生活文化全般(民俗)の調査研究、普及教育活動を行う。
著書は『栃木「地理・地名・地図」の謎』(じっぴコンパクト新書)、『栃木民
俗探訪』(下野新聞社)など。

■作者よりひとこと

■今回のお題「釣り」

・いちごとまるがおさん
自宅から徒歩圏内に川がありまして、子どもの頃によく釣竿を持って遊びに行っていました。1年前の夏にも、コロナ禍のため家を出ることができないストレスから、一度だけ父と釣りに行きました。野生の鯉のようなものが泳いでいたので、釣れるかなと思って、糸をたらしたのですが、パクッとかかったものの、鯉が重すぎて糸が切れてしまいましたとさ……。

・篠﨑茂雄
小学生のときに釣りブームがあって、近くの小川や釣堀、鬼怒川などによく釣りに
出かけたものです。でも、あのときの釣竿はどこにいってしまったのだろう。
現在、仕事で那珂川の漁師に聞き取り調査をしていますが、それにあわせて収集したウケ、アミ、ヤスなどは、この地域の生活を物語る貴重なコレクションの一つです。

初出:P+D MAGAZINE(2022/12/12)

◎編集者コラム◎ 『軋み』エヴァ・ビョルク・アイイスドッティル 訳/吉田 薫
【著者インタビュー】三國万里子『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』/ハンドメイド好きに大人気のニットデザイナーが、大切で幸福な記憶を綴る