◎編集者コラム◎ 『最終法廷』エリザベート・ヘルマン 訳/浅井晶子
◎編集者コラム◎
『最終法廷』エリザベート・ヘルマン 訳/浅井晶子
昨年7月、長くお世話になっているドイツ・ミステリのエージェントに、翻訳家・浅井晶子さんをご紹介いただいたのが、この企画の始まりでした。
浅井さんには当初、2012年にハヤカワ・ミステリの一冊として刊行されたオリヴァー・ペチュ〈首斬り人の娘〉シリーズの第二作のリーディングをお願いしました。17世紀、南ドイツの小都市ショーンガウの処刑人が主人公の歴史ミステリで、一作目が面白かったので二作目を待望していたのですが出版がなく、それならば自分で出せないかと考えたのです。
当時ベルリンに住んでおられた浅井さんにリーディングをお願いした際、承諾のお返事とともに、別の作品のリーディング・リポートが送られてきました。そのうちの一つがエリザベート・ヘルマン〈ヨアヒム・フェルナウ弁護士〉シリーズの第一作『子守の少女』でした。ヨアヒムとの出会いでした。
メールにはこう書いてありました。
『子守の少女』のほうは、ベルリン在住の貧乏小市民弁護士(男)と、その相棒の社会派正義感弁護士(女)が事件に巻き込まれていくシリーズの第一作で、ドイツで映像化もされています。ふたりのコミカルなやりとりがなんともいえず楽しく、ミステリとしてもよく構成されていて、またドイツの社会問題をうまく織り込み、登場人物が魅力的で、さらにスリルもサスペンスもアクションもある大好きなシリーズで、仕事とは無関係に新刊が出るのを楽しみにして、自費で買って読んでいます。
こうまで書かれていては気になります。その後〈首斬り人の娘〉のほうは、検討したものの出版までは決められず、代わりにこちらの〈ヨアヒム・フェルナウ弁護士〉シリーズの既刊分のリポートをすべて送っていただきました。(浅井さん、いつかはと思っていらっしゃったのでしょう。2021年当時の既刊分6冊のリーディング・リポートを、すでに作られていました!)
日本に紹介するにあたって、どの作品からがよいのかを念入りに検討し、出そうと決めたのが本作(第三作)でした。本来なら刊行順が望ましいのでしょうが、メールにもあった「ドイツの社会問題」のうち、日本人にも共有しやすい内容の作品からと考えた結果でした。
物語の詳細は読んでのお楽しみですが、久しぶりに登場人物たちの魅力をたっぷりと楽しめた作品でした。仕事ですから、二度も三度も読み直します。すると噛めば噛むほど味が出るスルメのように(喩えが古い笑)、物語の筋もさることながら、出てくる人物たちが誰もじつに面白いのです。ぜひご一読いただいて、多くの方に続編を望む声を上げていただければと思います。
ヨアヒムの装画は、小学館文庫〈警部ヴィスティング〉シリーズと同じく、光嶋フーパイさんに描いていただきました。主人公ヨアヒムのイラストを事前に浅井さんに見ていただいたところ、奇しくもドイツで映像化された際の主人公役ヤン・ヨーゼフ・リーファースに似ているとのこと! うれしい偶然でした。
Viaplayで映像化された〈ヴィスティング〉は2022年3月にWOWOWで放映されたばかりですが、こちらの〈ヨアヒム・フェルナウ弁護士〉はドイツZDFで制作・放映されて770万人(ドイツ国民の約1/10)が視聴したといいます。ドラマの上陸も待望されます。
──『最終法廷』担当者より
『ヨアヒム・フェルナウ弁護士
最終法廷』
エリザベート・ヘルマン 訳/浅井晶子