週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.77 ときわ書房志津ステーションビル店 日野剛広さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 ときわ書房志津ステーションビル店 日野剛広さん

『世界と私のAtoZ』書影

『世界と私のAtoZ』
竹田ダニエル
講談社

 竹田ダニエル。
 その存在を知ったのは Twitter だった。そこで披露されている論考のクールさと熱さの融和が絶妙で、今私が最も注目し、信頼する書き手の1人だ。
 著者はいわゆる「Z世代」に身を置く人物として、アメリカの音楽を中心とした文化を題材に、研ぎ澄まされた思考や生き方の提示を世界へ向けて発信し続けている。
 Z世代とは、年代で言えば1990年代中盤から2000年代に生まれた人々のことを指す。生まれた時から既にパソコンが普及し、インターネットの跋扈する世界の中で自我に目覚め、スマホやSNSも当たり前。それによって我々上の世代とどう違って来るのかは色々と想像も出来てしまうが、何かと牽制する前に、その特徴がもたらす彼らの面白さと可能性について、竹田ダニエルが並べる豊富な事例と、様々な角度からの検証を紐解いてみてはいかがか。
 大事なのは、彼らを見て相違点を強調することではなく、なぜこれまでとは違う価値観を持つに至ったのか、共に考えていくことだ。そうすれば、その要因が彼らの特殊性にあるのではなく、我々先の世代が作り上げた世界が導いた生き方の引き継ぎであり、反発、揺り戻しであることを痛感する筈だ。

 今でこそ世の中は、過去の悪習慣から脱却して行こうという世界の潮流に乗ろうとする動きが見られるものの、私たち上の世代が根強く持ち合わせている古い価値観を全て払拭することはなかなか難しい。学習はしても真の理解に至るにはまだまだ山のような課題を抱えている。
 それでも私たちは政治、環境、ジェンダー、差別や分断といった向き合うべき課題にいつまでも気後れしている場合ではない。本書はそうした課題を一から問い直し、問題の組み立て直しがされているので、読者にとってもしっかりとおさらいをする機会を与えてくれる。

 著者の挙げる事例はアメリカでの事象に基づいたものではある。
 ここはアメリカじゃない、日本だぜ?という懐疑心を持つ人はいるだろう。確かに土壌、背景、言語、文化の違いは大前提だとしても、果たして全く参考にならないと言えるだろうか?
 ブレイディみかこがライフワークとして説き(解き)続けるイギリスの〝地べた〟からのリポートや〝エンパシー〟という言葉に内実を込めていく作業が、日本の私たちを大いに勇気づけ新たな考察に導いてくれたことを思い出して欲しい。

 私が本書を紐解こうと思ったのは、若い人たちを理解した気になって悦に入りたいからでも、自分が思う〝正しさ〟の答え合わせをしたいからでも無い。
 この無残な世界を作り上げて来てしまった者の1人として、目を背け続けて来たことの再確認とやり直しの可能性について考察する時間を得ようという、貴重な読書の体験を得たい為だ。その目的は期待以上に果たされた。

 考えてみれば、「Z」というのはアルファベット26文字の最後だ。ということは全て一巡したということで、フラットになったのだ。
 若い人たちから学び、俺たちはどう生きていくのか?と一緒に考えて行くことは実に楽しいことじゃないか!
 そんな世代を超えた連帯が出来れば、このバカバカしい世界も少しは面白くなる。

 

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『それで君の声はどこにあるんだ?』
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