◎編集者コラム◎ 『エゴイスト』高山 真

◎編集者コラム◎

『エゴイスト』高山 真


エゴイスト 写真

 2009年に単行本が刊行された故・高山真さんの自伝的小説『エゴイスト』が今年2月に映画公開されました。映画化されるという情報が発表されたことをきっかけに原作もスポットライトを浴び、瞬く間にベストセラーになっています。

 14歳で母を亡くし、田舎町で本来の自分の姿を押し殺して生きてきた同性愛者である主人公の浩輔。しらがみのない東京で開放感に満ちた日々を送っていたが、ある日癌に侵された母と寄り添って暮らす龍太に出会い、恋に落ちて……。

 愛とは何かを問う本作。映画はドキュメンタリーのように撮影され、登場人物の表情や仕草、声色で生々しい感情の交錯を表現する一方、原作では浩輔のモノローグで、心情を繊細に語ります。
 まず映画をご覧になってその後原作で答え合わせをする方、原作を読んでから映像表現をご覧になってその世界観を堪能する方……どちらが先のほうがより深く作品を理解できるのか、とSNSで話題になっているようです。

「愛にも、家族にも、色々なかたちがありますね」

 高山さんとそんなことを語り合いながら、つくりあげていった小説です。本は活字の、映画は映像の、それぞれの魅力で同じ本質に向かっているからこそ、どちらも人の心を打つのだと思います。

 高山さんがご存命だったら映画の完成をどんなに喜んでくれただろうと残念に思う一方で、映画化決定後、さまざまな過程を経る中で感じたのは、今も彼が近くにいて、私たちを導いてくれているのではないかということ。それくらい、多くの奇跡を経験しました。

 高山さんは主人公の浩輔同様、ご家族にセクシャリティを隠していましたが、2020年に亡くなる直前、地元で療養されている際に、自伝的小説が映画化するかもしれないということを含めてすべてをお話されたそうです。そのとき、彼はまた新しい愛のかたちを見つけたかもしれません。

 文庫化のあとがきを、映画で主演をつとめた鈴木亮平さんに書いていただきました。彼がこの小説の持つメッセージをまっすぐに見つめながら作品に取り組んでくださったことが痛いほど感じられる文章です。

 人に天命というものがあるのだとしたら、高山さんの役割は鈴木亮平さんのあとがきを加えて完成された本作で、今の社会にメッセージを送ることだったのかもしれません。セクシャリティや年齢、肩書きや立場を問わず、より多くの方に手にとっていただけるよう願っています。

──『エゴイスト』担当者より

エゴイスト

『エゴイスト』
高山 真

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