中濵ひびき『アップルと月の光とテイラーの選択』
「まったく、子どもなんかに、科学や将来のこと、人間の日常生活でどれほどのエネルギーが必要なのかわかるものか」
政治家の多くはそう思ったことでしょう。ですが、北極で氷が解け、ホッキョクグマの毛色が白から茶色に変化しているのは、まぎれもない事実です。
氷のことだけではありません。海では、多くの魚や海洋哺乳類が、人間が捨てたプラスチックごみの破片を吞み込んでしまっています。産業革命は石炭を燃やすことではじまりました。ヴィクトリア時代には、煙突掃除の少年の多くが病気になって命を落としました。
そのあと、エネルギー源として石油が使われだし、やがて原子力が利用されるようになりました。でも、科学者たちは廃棄物の処理のことまで頭が回っていません。海底や地中深く穴を掘ってそこに捨てればいいと、いまだに考えています。地球の奥深くまで掘ったら、地核に影響をおよぼして、超巨大地震が発生したり、火山活動が活発化したりしかねません。最近では死火山がゾンビのようによみがえり、エネルギーを放出しています。静かに眠る地球を起こすようなまねをしてはいけないのです。
人類はこの美しい母なる地球で、ほかの動植物と共存していかなければなりません。人間だけが地球上で唯一の生命ではないのですから。
この状況をどうやって切り抜けたらいいのか、いま知恵を絞るべきです。さもないと、地球はテイラーの二番目の冒険のような運命をたどることになるでしょう。
たくさんの方がこの小説を読んで、人類を取り巻く状況について、あらためて考えてくれたらと思います。いまこそ、環境の悪化を食い止めて、山積みになった問題の解決策を見つけるために行動を起こすときなのです。どうか、若い世代の声に耳を傾けてください。たしかに若者は失敗することも多いけれど、王様に向かって「裸だ!」と叫んだ小さな男の子のように、ためらいなく真実を口にすることができます。
ときには、規則やルールに従わなくていいときもあります。縛られるべきではありません(もちろん、「人を殺してはいけない」だとか、「人を傷つけてはいけない」といった重要なルールは守らないといけません。キリスト教徒、イスラム教徒、仏教徒にかかわらず、わたしたち全員が従うべき大切なルールがあります)。わたしが言いたいのは、そういう地球規模の問題を解決するための行動を起こすのをためらってはいけないということです。活動が広がれば、解決策も見つかるでしょう。「調和」という言葉には、すばらしい意味があります。
人間は生きるためにほかの動物の生命を奪います。でも、動物を殺めるときは、生命を敬う気持ちを忘れてはいけません。食肉用の家畜であっても、生命をうばうときはなるべく怖がらせないようにしてやるべきなのです。
わたしは日本語の「いただきます」という言葉が大好きです。わたしたちを生かすために生命をくれたほかの動物や植物に感謝するための言葉だと、ママが教えてくれました。とてもショッキングなことだけど、本当にその通りだと思います。
わたしは、日本人は感情をとくに重視する人たちだと思いますが、「いただきます」は感情的な言葉ではなく、ほかの生命をいただくことに感謝を表すための言葉だと思います。
わたしたちはこの混沌とした世界を生き抜かなくてはなりません。民主主義は危機に瀕していて、世界じゅうで巨大地震の発生が予想されていて、もしかしたら第三次世界大戦が起こる恐れもあります。アメリカ、中国、ロシアなどの大国中心の考え方をしていてはいけないのです。地球のあらゆる生き物を中心に考えなくては。この厳しい局面を乗り切るために、互いに協力し合わなければなりません。人類が力を合わせて知恵を絞り、叡智を結集すれば、解決策が見つかるはずです。
次にお伝えしたいのは、多様性(ダイバーシティ)のことです。
わたしは有色人種である日本人の女の子として、イギリスで6年間を過ごしました。
そういう境遇に生まれついてよかったと思っています。
白人にしてみれば、わたしは「二流市民」でした。でも、わたしだからできることがありました。白人と有色人種、どちらの視点からも、ものごとを眺められる強みがあったのです。
テイラーは「特権階級」である白人として生まれました。でも彼女は女の子です。この本では、女性を取り巻く状況についても書きました。昨日、3月8日は国際女性デーでした。LGBTの人たちも含めて、異なる性について考えるまたとない機会です。
冒険の途中でテイラーは身体が不自由になります。でも、その経験からたくさんのことを学びます。それまでとはちがう境遇に置かれることや、ほかの社会的立場にいる人たちについて学ぶのです。
世界にはさまざまな人がいます。ロンドンでは、アングロサクソン系白人のイギリス人は少数派です。街のなかでは多様な人種を目にします。
内心はどう思っているのかわかりませんが、少なくとも白人のイギリス人は異人種を受け入れようとしています。
ママはわたしを公立学校に入れ、イギリス人の友達といつも遊ばせました。
最初は外国人のわたしにたいして、差別意識をあらわにする人もいました。でも、わたしの前でドアが大きく開け放たれたのです。