岡本貴也『運命の人を見つけた、ら』

『運命の人』なんているんですか


僕の初恋は小学校高学年でした。

小学校を卒業後、僕は市外の男子校に入ったので、
一度も会えないまま、中学の三年間、ずっと好きでした。
長い片想いです。

その後、いくつかの恋愛を経て上京した僕は、
強烈な女性と出会いました。

一目惚れでした。
同じ大学の、二つ上の先輩です。

ボーイッシュで、自立心が強く、目と胸がとても大きい人でした。
白いシャツが似合っていて、笑うと目がなくなります。
そして、やはりというべきか、初恋の人に少し似ていました。

片想いでした。

先輩には彼氏がいました。

しかも、彼氏の名前は、僕と同じ 〝貴也〟だったのです。
それを知った日は、悔しくて頭がおかしくなるかと思いました。

彼女に振られた日は、駅の改札で缶ビールをたくさん飲み、
帰宅してからは、冷蔵庫にあったウイスキーを二本と、ウォッカを空け、
朝方、シャワー室で吐きました。

それでも、そこからさらに二年間、
彼女が大学を卒業するまで、ずっと好きでした。

その人のためなら死ねる、と本気で思ったのは、
後にも先にもあの時だけかもしれません。

あれから長い月日が流れました。
たくさん本気の恋をして、結婚も、離婚もしましたが、
今でもあの恋が、人生最大の恋愛だったと思います。

もし『運命の人』というものが存在するとするならば、
僕にとっては間違いなく、あの先輩のことでしょう。

もちろん、その後付き合った女性たちのことも、本気で好きでした。
何があっても守る、と心に誓っていましたし、
実際に神社で神様に誓ったこともあります。

でもやっぱり、あの恋愛とはどこか違いました。
初恋が、他の恋愛と全く違うように、です。

二年以上にわたる長い片想いだったことも大きいでしょう。
片想いは、好きという気持ちがどこまでも膨らみ、さらに、綺麗な思い出しか残りませんから。

そう考えると、『運命の人』って、
『運命で結ばれることが決まっていた相手』
ではないのかもしれませんね。

それにしても、
なぜ僕は、こんな三十年近くも昔の恋を熱く語っているのでしょうか。

ええ。
壮大な恋愛小説を書き上げたからです。
何度もあの恋を思い出しながら。

『運命の人を見つけた、ら』

奇妙なタイトルです。

もし本当に人生をやり直せるなら、どんな風に生きるだろう。
そんな疑問から出発した小説です。
ぜひお手にとっていただければ。

岡本貴也(おかもと・たかや)

1972年神戸市生まれ。脚本家・舞台演出家。テレビドラマ「銀二貫」や映画『想いのこし』の脚本を手がける。2010年『彼女との上手な別れ方』で作家デビュー。ほかの作品に『世界が記憶であふれる前に』などがある。

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