ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第52回

ハクマン52回紙の本にも良さはある。だが、
電子で漫画を読む人の方が
増えているのは事実である。

実際私の本も、2020年は電子の売り上げ数が紙の発行部数を越えていた。私のような末端でさえそうなのだから、業界全体がそうなっているはずである。
よってポテンシャルがある本は、コロナの影響で紙が売れていなくても電子で売れているはずなのだ。
いくら日本企業がオフィスに「fucks」という御神体を常設している紙フェチだと言っても、電子で売れている漫画を出版社もそうそう打ち切りにはしない。
よって「コロナのせいで本が売れず打ち切りになった」と、力強く言い切ることはできず「遅かれ早かれ終わっていたが、コロナのせいで寿命が1巻ぐらい縮まった」程度の主張にしておいた方が無難である。

しかし、すでに有名な本がコロナをきっかけに電子でさらに売れるということはあっても、知名度のない作品はそうはいかない。
そういう実力はあるのにまだ知られていない作品が「書店に並べられる」というチャンスを逃したのは事実である。

ともかく、PDFで送られてきたデータを紙で出力するのが大好きな日本といえど、すでに電子のシェアが紙を追い越しつつあり、それがコロナの影響で一気に加速したと言える。

もちろん紙の本にも良さはある。
特に小中学生のころ、書店もしくは母親の本棚で「BL」という新大陸を発見した時、クラスの女子たちに「とんでもない文明を発見してしまった」と鉄砲(暗喩)伝来させたくても、電子では捗らない。
合法の貸し借りにおいてはまだ紙の本の方が一日の長があると言える。

また突然「この漫画の一番エロいページを見たい」と思った時、紙ならパラパラめくって目押しすることができるが、電子だとそれができない。
ただそれは、紙に慣れている初老の感覚であり、今の若人は「あのまんぐり返しシーンはこの辺だった」とスクロールバーをジャスト位置に決め打ちする能力を持っているのかもしれない。

ともかく、電子のシェアの方が紙を上回りつつある今、漫画もそこまで紙の本を出すことにこだわらなくても良いのかもしれない。昔は、紙の雑誌に載っている漫画が一軍で、WEB連載は育成選手、もしくは姥捨て、というイメージがあったが、今では多くの人間の目に触れたいと思ったら雑誌よりWEBの方が有利になりつつある。
ただ、WEBでタダで見られるのが前提になってしまい、見ている人間は多いが「だが、だれも金を出していないのである」というアフロ田中状態になるリスクもあるのだが、作品数が多い今、まず知ってもらえることが大事なのである。

紙より、電子で漫画を読む人の方が増えるということは、漫画も電子向けにしていかなければいけない、ということだ。

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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◇自著を語る◇ 森岡督行 『荒野の古本屋』