ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第52回

ハクマン52回紙の本にも良さはある。だが、
電子で漫画を読む人の方が
増えているのは事実である。

まず、スマホで読むことを前提にすると文字はあまり多くできない。
つまり説明セリフやナレーションが多い漫画はスマホでは読みづらく、読者に敬遠されるということだ。
つまり、自分では絶世の美女のつもりで描いているが、読者にもそう見えているか不安な時、モブに「北の方角から夕陽を背に絶世の美女がスーパーカブに乗ってやってきたぞ!」と叫ばせるという手法は漫画を読みづらくさせるので、絶世の美女はもちろん、スーパーカブや夕陽も絵だけでそうだとわかるようにしなければならない。

またスマホで見るなら、コマも大きく、そしてコマ割りも単純な方が良いらしい。

雑誌では複雑なコマ割りも映えるが、スマホではそれが効果的に見えないばかりか読みづらいため「縦に三等分」ぐらいシンプルな方が良いそうだ。

これは、描き始めた時はコマ割りにもこだわろうと思っていたのに、気づいたら全てのページを均等に割りはじめている自分にとっては「追い風が吹いている」と言っても良い。
そもそも、クリスタのコマ割機能をよく理解していないため、それ以外できないのだ。

またyoutubeもサムネで12割決まると言われているように、WEB漫画はバナーやサムネでどれだけ読者の興味を引けるかが重要なのだ。
よって、1話につき最低1コマは「照英が泣きながら地雷除去をしているシーン」など、読者が「一体何が起こっているんだ」とクリックせずにいられない絵を入れなければならない。
「つまりエロいコマを用意すればいいんだな」と言われれば全くその通りだったりもするのだが、もちろんそれはエロが上手く描ける作家に限る話である。
むしろ、下手な作家が急に求められてないエロシーンを描きだすほど読者に「終わり」を感じさせるものはない。

ところで私が一番電子化して欲しいのは「献本」である。
単行本が発売されると、作者は多いところで20冊ぐらいもらえるのだが、正直己の同じ本をそんなに貰っても持て余すし、部屋での転倒リスクが高まるだけだ。
人にあげようにも、リアル知人にアナログの本を20冊配るというのは、よほどのコミュ強か近所の変わり者でないと至難の業なのではないか。
それを何らかの方法で電子で20部もらえれば、まだ人にあげやすいし、送りつけられた方も必要なければ削除すればいいだけでお場所も取らないし、それにつまずいてコケることもない。

しかし、未だに献本を電子化している出版社はないため、先に「献本は1冊でいい」と言うようにしているのだが、今回それを言い忘れて20冊届いてしまう予定である。

紙の本には紙の本の良さがある。
しかし、己の紙の本が20冊積まれているのを見ると「令和やぞ」と思わざるを得ない。

(つづく)

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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