ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第68回
「副作用が起きないことに
ワンチャン賭ける」作戦でいく。
ただ本物のブラック企業は、社訓の隣に「コロナは風邪」と掲げられており、ワクチンを打ちに行く時間さえ与えられないだろうし、もしコロナに罹ったら「気合が足りない」という理由で減給もあり得るので、打ちに行かせてくれる上に、有給でも休めるならマシと言えなくもない。
だが、その日の生活費をその日の労働で稼いで使い切るという、江戸風のレトロかわいい生活をしている人や、締め切りが明日迫っているを越えて、昨日終わってしまっている作家がさらに2日休むドン!というのも難しい。
逆に言えば、これはどう考えても間に合わないと分かった時点でワクチンを打ちに行き「副反応で描けなかった」という言い訳を作り出すことができる。
それも2回ではあまりにもチャンスが少なすぎるので、やはりワクチン年間フリーパスぐらいはご用意すべきだろう。
それ以前に、今現在私の担当も3人ぐらい「ワクチンの副反応で死んでまして、お返事遅れてすみません」とメールに書いてきている。すでに先手を打たれているのだ。
このように、ワクチンを打って体調が悪くなる可能性が高いのだから、その分の休暇や手当を国が出しても良いのではないか、と思うが、逆に言えば、体調が悪くなる日が大体わかっているなら、何故その日を休めるように調整してこなかったのだ、ということにもなってしまう。
確かに、2日動けなくなるなら、2日分仕事を前倒ししておくことで気兼ねなく休めるはずであり、自分の采配で仕事をしている作家などのフリーランスはそれができなくはないだろう、と思うかもしれない。
しかし「そこのお前!2日分の仕事を前倒しするには、2日分の時間が必要なんだぜ!」というレモンニキすら「こんな当たり前のことわざわざ言いたくねえよ」と思う自然の理があるため「亜空間から2日持ってくる」などしない限り難しく、多分それよりは休載する方が簡単である。
「日頃から余裕を持ってやってないからだ」と言われればそこまでなのだが、作家のみならず、現在「余裕」を持っている人というのはそんなにいないのではないだろうか。
つまり、人にイレギュラーな何かをさせようとするときは、それができるだけの「余裕」を同時に与えないとダメということだ。
もし作家に金曜の夜「月曜の午前中までに出してくれたらいいっすよ」という仕事を出したいなら「己の首」程度は与える必要はある。
そうすれば、作家も苦悶に満ちた担当の首を机に置くことで、土日でも仕事をする「心の余裕」が生まれるのだ。